出掛けないか。 

彼に言われたのは数日前。それを聞いた私は、自分でも気付かないうちに首を傾げていたようで、スコールさんに小突かれたのでした。

現在、平日の昼間は私がバイトに入っており、スコールさんは講義が終わり次第喫茶店を訪れ、勉強や読書。夕方、私が上がる時間に合わせて一緒に帰宅している。土、日もお互い予定が無ければ、図書館やカフェで一緒の時間を過ごしているし、最近はお泊りも多い。予定があって会えない日だって、マメなスコールさんのおかげで今まで寂しさなんて全く感じなかった。だから彼に言われて気付いた、そういえば私達二人でどこか遠くに遊びに行ったりしたことがなかったのです。まさか、彼がそんなことを考えていてくれたなんて…嬉しくて、勿論、二つ返事で了承。


「スコールさん、どこに連れて行ってくれるんですか?」

「ナマエの好きなところでいい」


後日、彼に行き先を尋ねると、特に決まっていないようで。この発言、一見私に丸投げされているように見えると思いますが、実は違うのです。私とだったらどこでもいい、私に楽しんで欲しいというスコールさんの思いやりなのです(解読には慣れました)。冗談で、じゃあ、遊園地でも?と尋ねると、彼は私の予想外の発言に少し狼狽えていたのでした。

結局お出掛けの案を上手に出せなかった私は、電車で30分程の距離にある大きなショッピングモールへと向かい、公開されたばかりの映画を見て、ランチをしながら映画の感想だとか、お喋りを楽しんだ後は買い物をして、お互いの服を選んでみたり。近くの公園を少し散歩して、それから帰路に着きました。今までのデートとはちょっとだけ毛色の違うスケジュールに、ただただ満足の一日でした。彼に選んでもらった服を着て、またデートに出掛けるのがとても楽しみ。帰り道、私の家へと向かう途中に彼も同じようなことを言っていました。


「今日は一日、ありがとうございました」

「…いや」


スコールさんと想いが通じ合ってからというもの、私は毎日幸せです。そう言って彼に微笑む。すると彼は、何故だか眉をきゅっと顰めて難しい顔をするのです。何か気に触ることを言ってしまったのか。問いかけに首を横に振るスコールさん。


「ナマエ、」

「はい」

「いつまで此処にいる」


どきり、胸が跳ねた。彼の口から放たれたその言葉、そして私をまっすぐに見つめる青い目。言いたいことは、すぐに分かった。卒業したら、バイト、やめなくちゃいけないなってずっと思っていました。そう呟くと、私の言葉を聞いたスコールさんは深く溜め息をついた。結局、この話ははぐらかし続けてきたまま。彼にも面と向かって問われたことはなく、卒業後の進路についての話をしたことは、今まで一度も無かったのです。…私が話さないから、彼も避けてくれていたのかもしれません。この現状がずっと続けば良いのにと、ふたり同じことを考えていたのかな、と思いました。もう、決めているのか。そう聞かれたので、素直に頷いて。

歳上の私は、どうしたって彼より先に生活環境を変えなければいけない。このまま、彼と平凡な毎日を過ごしていたいのに。でも、私からそんなことを言うのはずるいなと思って、今まで口には出さずにいました。続く沈黙の中、彼は静かに私の手を取り。


「如何するんだ、これから」


こんな状況で、不謹慎だと思う。でも、見上げた先の揺れる青は、やっぱり綺麗でした。スコールさんは本当に無口だけど、心の中では案外とお喋りで、この目がそれを語っている。どうしても、この目を愛しいと、思わざるを得ないのです。私が何も話さずにいたものだから、彼は心配してしまったのでしょう(リノアさんが、スコールさんが悩んでいると言っていたのは、やっぱりこの事だった…)。私と今までのように過ごせなくなる、私が離れていく、と思って不安になっている彼を見ればただ罪悪感を覚えた。そうそう、こう見えてこの人は、とても寂しがり屋さんで、ヤキモチ焼きなんです。繋ぐ手を引き寄せ、そのまま顔を覗く。


「スコールさん、今まで何も相談せずにごめんなさい。私、」

「…行かないでくれ、何処にも」

「…スコール、さん」

「俺のそばから離れるな」


スコールさんの真剣な表情。道の真ん中で、私の身体をきつく、きつく抱き締めた彼。いきなりの事に、一気に体温が上がってしまった。どうやら彼は私の言葉の続きがどんなものになるか、全く想像がつかないらしい。動揺しているようで、冷静ではない。普段、こんな事絶対にするような人じゃないんですから。私が慌てていると、ぽつり、私の頬に一粒の雫。次いでもう一粒、もう一粒と増えていく。雨だ!今日は降らないという予報だったから、傘は持っていません。そして、彼も相変わらずです…。取り敢えず、続きは私の家で!




ぬくい手を
(引っ張って、走った)(これからも、ずっと)



back




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -