私だけを見てほしかった。でもきっと無理で。かっこよくて女の子に人気があって、私じゃ手の届かないような人。私にだってリップサービスで話しかけたようなものだと思うし、浮かれちゃいけないってわかってる。だから黙って、ひっそり、君を想っていればいいと、自己完結したところだったのに。


「俺の話聞いてる?」


こうして彼は話しかけてくるから。君のことを好きな人間がここにどれだけいるのかも知らないで、私がその子たちにどんな目で見られているかも知らないで、自分の席に座る私の前方、笑って立っている正臣くん。


「迷惑なの」
「何が?」
「話しかけてくること」


私は今本を読んでいるのにどうして邪魔をするの。そう続けたら君はいやにまじめな顔をして、それから大声で笑い出した。ばれている。私の言い訳が。こんなところで大笑いしたりしないでよ。君はただでさえ目立っているのだから、私は目立ちたくないのだから。そうして私はいつの間にか鞄をふたつ持った正臣くんに手を引かれながら学校を抜け出している。全力疾走で。


「ちょっと!どういうつもり」
「今日くらいサボったっていいだろー?」


私のと、自分のと、でふたつ。まだ学校は2限が終わったところ。勿論今日は授業が早く終わったりする日ではない。ああ、クラスの何人かが見ていた。目立つのが嫌だって言ってるのに私は何をしているの。先生に怒られたらどうしてくれるの。ねぇ、どうせ私なんてリップサービスなんでしょ?じゃあなんでこんなに私に構うの?こんな地味で、特に取り柄もないような私なのに。ねぇ、勘違いしてもいいの?私は傷つきたくないよ?


「あのなー」
「なに」
「女の子全員にこういうことはしないからなー」


一方的に繋がれている手をそっと握り返してみたら、前方を走る正臣くんの耳が赤くなっている、ように、見えた。自惚れ?私には、君がわからないよ。それでも、今だけは私だけの君だって、思ってもいいよね。




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