つくづく思うことがある。彼はきっと出来ないことなんて無いんだろうな、と。

今更口に出して言うのも野暮だけれど、彼は本当に風、風そのもの。冒険好きと自ら豪語するだけあって、彼と会うのは一年の中でもたったの数日、…帰ってきやしないから。今だって彼が何処にいるのか知らない。風だけに、風の噂で聞いたのだけれど、何だかスポーツに励んでみたり?ひたすら誰かと闘ってみたり?挙句の果てにカーレースだのしてみたり?どうやら楽しくやっていらっしゃるようだ。ええ、ええ。本当に何よりだと思う。多才で。
ステーションスクエアは今日も変わりない。お気に入りのカフェ、そのテラスでアイスカフェオレを片手に寛いでいると、突然目の前にヤッカーが現れた。よく分からないけど、遊びに来たのだろうか。目の前に揺蕩うヤッカーをつんとつつくとくにゃりと身体を曲げて、愉快そうにくるくると回って笑っていた。私もつられて笑いを零す。いいな、君は彼の役に立てて。私なんか、こうやって待ってるだけなの。何にもできない自分が大嫌いで。あんな人のこと、忘れてしまえたらどんなに楽なのか。重い溜息を吐き出すと、ヤッカーはあわあわと慌てて、まるで私の溜息をかき消す様に宙をもがいていた。次いで、肩を叩かれた気がして振り返る。…そこには私の悪口の原因となった彼が立っていた。一体何時からそこに。その表情は少し引きつっているようにも見える。ということは、きっと最初からか。よく考えなくともヤッカーは彼に着いてきたから此処に居たんだろう。私が浅はかだった。

特に会話をすることもなく、機嫌の悪い彼に抱き抱えられたまま、高速でやってきた何処かの星の遊園地。宇宙の闇の抱擁。きらきらと輝くネオンが目に沁みる。ヤッカーがぽよんと跳ねて喜んでいる。漸く彼の腕の中から降ろされた私の足が地について、彼と向き合い視線が絡む。


「悪かったな、多才で。」

「…気にしないで、ただの悪口だから」

「オイオイ、開き直るなよ…」

「人のこと言えないでしょ、今まで何処に居たってのよ。私は、貴方についていけないの。会いたくたって、会いに行けない。…いつだって、もう二度と会えないかもって思ってるんだよ。何も言ってくれないし、貴方の事聞くのはいつも他人から。何なの?腹立つ」


私の言葉を聞いた彼は大袈裟にやれやれと肩を竦めてみせた。怒っている私を宥めようとしたのか、ヤッカーがむぎゅうと私に抱き着いてきた。なんて可愛い。表情が少し緩んだところ、彼はそうっと私の手を取る。


「暫く世界を旅して、色んなものを見てきた。ナマエに見せたい景色ばっかりだったんだ」

「はぁ」

「全部一緒に見よう。まずは此処から」

「…新しい奇跡、見せてくれるんでしょうね?」

「Hmm、それは心配することじゃないぜ。」


───息を飲んだ。無理矢理腕を引かれて再び腕の中に閉じ込められたと思ったら、あっという間にエントランスを駆け抜けていた。土を潜って、壁を駆け下りて、レールを滑る。景色が流れる。彼が一際高くジャンプして、二人身体が宙に放り出されて、眼下に遊園地、そして私達が住んでいる地球、満天の星が私達を包んでいる、そこに花火が上がった。たくさんの、光。


「Amazing…」

「何だって?」

「…目が回りそうだって言ったの」


宙に向かって手を伸ばす。星が掴めそうだと思ったのは、これが初めてじゃない。

光に照らされた彼の横顔。あれだけ放っておかれたのに、帰ってきたら掌返したような感じだけど…私が生きてる間は、彼の言う見せたい景色とやらに付き合うのもいいかもしれないと、そう思ってしまった。


「ただいま。」

「…おかえり。」


あと何度この言葉を彼と交わせるんだろうか。


「さぁて、お気に召しましたか、My honey?」

「…馬鹿にしないでよ、遊園地なんかで喜ぶ歳だと思ってんの。いつまでも夢見る少女じゃないんだから」

「All right、ならスパゴニアの方がいいか?」

「私、あの街好き。」

「じゃ、早々に片付けるとするか!この後はマーケットストリートをドライブだな、デートコースは任せてくれ!」

「…相変わらず忙しいったら。まだ此処に来たばかりじゃないの」

「モタモタしてたら時間が勿体ないだろ?」

「私は君と一緒ならどこだっていいけど」

「…言うねぇ。OK、どこだって連れてってやるさ!」


彼はこれからも何だってやるし、何だって出来るのだろう。誰よりも自由な人だから。そしてどんな夢だって見せてくれると信じてる。私はずっと、これからも彼に───


「楽しませてね。」




新しい星の夢!(Color stars ultimate!)

(Happy Birthday 2021.6.23)




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