※明智君と、警察から精神暴走事件やら怪盗団やらの件について協力を依頼されている犯罪心理学者さんのお話。冴さんとは高校の同級生。


「一昨日来やがれ!!!」


怒号飛び交うは私の研究室。捜査だ何だと言って喧しく近寄って来る割に、私の助言に対してはああだこうだと文句ばかりの刑事達がズラリ並んで。力を貸してほしいなら素直に言うことを聞け。私だって好きでこんな事件の担当をしているわけじゃない。そう捲し立てると、刑事の一人がふんと鼻で嘲笑ったのが見えて、私は勢いよく立ち上がった。腰掛けていたキャスター付きの椅子が勢いよく床を滑って壁にぶつかり、盛大な音を立てて倒れた。私の剣幕に驚いた刑事達は肩を跳ねさせ、慌てて部屋を飛び出していったのだった。


「お見事ですね、ナマエさん」
「…はー…、見てたの、明智君…」
「丁度着いたところでした。ああ、でもナマエさんが彼らを追い出してくれたから、僕は長居しても大丈夫そうですね。安心しました」
「いいって言ってないんだけど。また長居する気かい…」
「勿論です、手土産持ってきましたよ。これ、一緒に食べませんか?今コーヒー淹れますね」
「ちょっと、こら!勝手に人の研究室弄るなってば」
「ええっ…僕とナマエさんの仲なのに?」
「どんな仲…」


空けはなされた扉、その隙間から身体を滑りこませてきたのは一人の青年、名を明智吾郎。高校生ながらメディアでその顔を見ない日はない、今をときめく探偵王子様とやら。彼もまた先程の刑事達と同じ事件を追いかけており、最近私の元へよく来るようになった。明智君は通い慣れたこの場所で、最早私よりも何がどこにあるか把握しているようだ。手際良くマグカップを2つ並べ、インスタントコーヒーを淹れている。彼がローテーブルに置いた紙袋、無遠慮に彼の手土産だというその中を覗けば、高級そうな包みが目に入る。ソファに腰掛けながら、開けていい?と彼に問い返事を待たずに取り出すと、全く、貴方こそ人の事を言えませんね、と苦言が飛んできた。


「わ!トリュフチョコ!美味しそう!!」
「どうぞ、僕の分も少し残して下さいね」
「いただきます!美味しい!」
「早い…」


箱を開ければふわふわのココアパウダーを纏ったトリュフチョコレート。一粒つまみ、口に放り込んだ瞬間にほろりと解ける。芳醇なラムの香りが鼻に抜け、思わず恍惚と声が漏れた。私の様子を見た明智くんは微笑みながら私にマグカップを差し出して、ナマエさん、と呼びかける。


「僕にも下さい、ひとつ」
「え、そりゃ勿論、明智君が買ってきてくれたんだし。ひとつと言わず、どうぞ」
「違いますよ、あーん、って」
「どうしたの、頭大丈夫?」
「ほら、手袋外すの、面倒なので」
「この後レポート読むのに外すだろうが」
「優しくないなぁ…」
「煩いね」


これ見よがしに重い溜息をついてみせて、態とらしく眉を八の字に下げて。可愛くない。彼が私の隣に腰掛けると、ソファが少し沈んだ。コーヒーに口を付けている彼の横で、もう一粒とチョコレートをつまみ、自らの口に入れようとしたその時。手袋を付けた手が私の腕を掴み、引いた。うわ、なんて声を上げている私の指につままれたチョコレートは、あっという間に彼の唇に挟まれて、消えた。コイツ、私の手を使って、チョコ食べやがった…!驚きのあまり見開いた目が、自身の唇に付いたココアパウダーを舌で舐め取る彼の姿を捉えて。


「ご馳走様です、ナマエさん」
「な、な、な!?は!!?」
「おやおや、遂に言葉を失ってしまったんですか」
「遂にじゃない!何してんの!?」
「美味しいですね、これ。甘すぎなくて」
「…そこはナマエさんが食べさせてくれたからちょっと甘すぎるかな、とか言って照れたりした方がいいよ」
「すみません、僕正直者なので。」
「ええ…うざ……」


いつの間に持ってきたのか、棚から抜いてきた私のレポートのうちの一冊を手にしている彼は、コーヒー片手に静かにそれを読み始めた。おいおい、やっぱり、手袋外してるじゃないか。…十近くも歳の違う男の子相手に私ばかり動揺しているのは気に食わない、仕事に戻ろう。
マグカップごとパソコンのあるデスクに戻り、スリープを解除。…ああ、そういえば今週末の学会で発表する資料を作っている途中だった。すごくいい調子だったのに、あの刑事達がアポも取らず勝手に乗り込んできて中断されたまま、…私にはおやつなんて食べている暇はなかった。アイデアを忘れないうちに、文字にしておかないと…軽快に滑り出した私の指、キーボードを叩く音が心地良いのか、盗み見た彼の横顔は先程よりも幾分気が抜けているような気がした。それから彼に改めて声を掛けられるまで、私は画面を見つめていた。


「ナマエさん、何時までやるんですか」
「…え?……あー、もうこんな時間か…」
「一緒にディナー、どうです?」
「寿司?そういうのは冴に頼みな。」
「残念。じゃあ、ラーメン。」
「それなら乗った。丁度濃いものが食べたかったところ」
「そう言うと思いました。今日もお疲れ様です。早く行きましょう、お腹すいちゃって」
「ちょっと?そのレポートは持ち出し禁止、返して」
「ちぇ」


急に可愛い子ぶった彼にデコピンをぶちかます。思いの外痛かったようで、彼らしからぬ素の反応で、痛って…!とくぐもった声を上げていた。はぁ、スッキリした。




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