泣きついている。私に、あのWが。帰ってきた途端に、なりふり構わず抱きついてきたかと思ったら、泣いていたのだ。ものすごい音でドアが開いて驚いて、振り返る間もなく背中にタックルです。無下にもできず、そのままにしているけれど、なんなのこれ?ちょっといつものサディストW様は何処に行っちゃったわけ?
「なんか嫌なことでもあったの」
「…っ黙れ」
黙 れ で す っ て 。何だよコイツ泣いてるからってこっちが下手に出たらこれだよ腹立つな。いつも通りじゃねーかこの減らず口。
お腹のとこに両腕を回されて抱きつかれているから顔は見えないけど、あまりにぎゅうぎゅうと抱きしめてくるものだから、なんか子供みたいだなと思った。とりあえず苦しい、と言えば、存外Wはすぐに腕を緩めた。
漸く振り返って見た彼の顔。眼は真っ赤で潤んでいた。強がっているのは口だけで、割と余裕はなかったらしい。顔を隠そうともしないのだから。
じっと私を見つめたまま、ぐずぐずと泣いている彼に私はどうしてあげるべきなんだろうか。今彼が何を望んでいるのかは分からない。離してはもらったものの、手持無沙汰になった両腕を彼の背に回して、抱きしめておいた。
この人はきっと弱音の吐き方を知らないんだ。いつだって傷ついてボロボロで、大事なものを守るために戦ってる。大事なものを、守れるかどうか不安で、必死で、いっぱいいっぱいで。
「つらいときは泣いてもいいんだよ」
「…テメェ、…上から物言ってんなよ」
「さっきからなんなのアンタむかつくんだけど」
「…、っありがとな」
「え」
渇いた笑い声が聞こえた。いつでも私に吐き出していいのに。いや、吐き出してほしい。それでWが楽になるのなら。私にはそれくらいしかできないのだからね。回していた腕を解き、ちょっと離れて今度はWの頭を撫でておいた。
「ガキ扱いすんな」
「嬉しいくせに」
「嬉しくねぇよ」
「あっそう。じゃあやめる」
「は?誰がやめろって言ったんだよ」
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