私は購買部のカウンターに肘を付きながら、カードを並べていた。今は生徒の姿もない時間帯の筈なのに、目の前には赤い制服を纏った笑顔の少年。どうしてこんな時間に、此処に居るの。なんて聞くだけ野暮だ。彼は授業をサボっている。

遊城十代。彼は今年このデュエルアカデミアに入学してきたばかりの初々しい一年生…だが、随分とマイペースに学生生活を謳歌しているようだ、この様子では。彼は他の生徒同様、購買部の目玉商品であるドローパンが好きらしく、毎日山のように積まれたパンの中にたった一つしか存在していない黄金のたまごパンを引き当てるのが得意なようだ。私もこのデュエルアカデミア購買部に勤め始めてから毎日、生徒達が一喜一憂しているその姿をゆるりと眺めているのだが、正直彼の引きはとても強い。あの子は将来大物になるだろうな、なんて思っていた。最初はそれくらい。

気が付いた時には、彼はトメさんと仲良くなっていた。そうして私も、たまに彼と会話を交わすようになった。それはまだ、最近の話だ。しかし彼はやけに授業をサボり、昼前、生徒達で賑わう前の購買部に顔を出してくるようになった。私に会いに来ているそうだ。それが嫌なわけじゃない。ただ彼は一年生の中でもかなり目立つ。更に問題を起こしてほしくはない、しかも私のせいで。あまり此処に来ないほうがいいと、来るならせめて休み時間にするようにと忠告したら、これ。


「ランパートガンナーで、ダイレクトアタック!!」


俺とデュエルしようぜ。本当にここの生徒達は何事もデュエルで解決しようとする。仕方の無い事ではあるけれど。頭を抱えたくなったが、まぁそれで彼が納得するなら…とそのデュエルを引き受けた。

彼は一年生の割に、とても強い。と上から見ているのは、私もだてにデュエルアカデミアという場所で働いていないということだ。私の伏せカードは魔法の筒、これを発動してしまえば彼のライフは自身のランパートガンナーの攻撃力分のダメージを受け、0となる。彼の攻撃宣言を聞き、私は彼に質問した。


「どうしてそんなに勝ちたいの。そんなに、この時間此処に来たいの?」
「当たり前だろ!あんたがここに居る時間短いし、話せる時間なんて、今ぐらいしかないんだから」
「まぁ私も仕事なのでね…」
「頼むよ、俺からこの時間を取り上げないでくれ!」
「うーん…」
「あーもー!ダイレクトアタックが通れば俺の勝ちなのに、なんで悩むんだ!対抗できるカードなのか、それ!!」


彼は、態々時間を作って私に会いに来てくれている。生徒に慕われるというのは素直に嬉しいものだ。でも、学生である彼には真面目に授業を受けてもらいたい。そんな葛藤が、伏せカードを捲るか否か、私を悩ませている。


「何で私に会いに来たいの?」
「そりゃぁ、あんたが好きだからだよ」
「はぁ…」
「ため息つくな!ガキだと思って相手にしてねぇんだろ、どうせ!」
「…どうして私が好きなの?」
「そうだなぁ、ハッキリ理由なんてない。気付いたら好きだった」
「えー…」
「全然響いてないなぁ、ちくしょう」


不満気な彼の表情。不純すぎる動機を耳にし、やはり、ここは大人として、厳しく生徒を導かなければいけないと悟る。その好意を嬉しいだなんて…私がしっかりしなければ。彼の告白を受けながらも、そんなことを考えていた。私は意を決して伏せカードを捲る。


「魔法の筒。ランパートガンナーの攻撃は無効、その分のダメージを君に与える」
「はー…、俺の告白は却下って事?」
「そうなるかもね」
「ふーん、…じゃあ却下する事を却下させてもらおうかなぁ」
「え」
「俺の場にも伏せカードあるの、気付いてるよな?」


発動する素振りが全くなかったから、腐っているのかと思っていた彼の伏せカードが場に一枚。デュエルが開始した直後くらいからずっと隅に伏せられていたそのカードを今、彼は意気揚々と捲った。ああ、そうだった。彼は黄金のたまごパンを連続ドロー出来るような人だったと、ぼんやり思った。


「神の宣告をチェーン!ライフを半分払い、魔法の筒を無効にして破壊する!」
「うわぁー…、よく今まで打つの我慢したね」
「へへっ、我慢強い男、好き?」
「うん、嫌いじゃない。あーあ、私の負け」
「よっしゃ!!」


その引きの強さは筋金入りか、彼の伏せていたカウンター罠は神の宣告、私の魔法の筒の効果は無効。ランパートガンナーのダイレクトアタックが決まり、私のライフは0。彼の勝利だ。しぶしぶ両手を上げると、彼は小さくガッツポーズ。私の抵抗は意味を成さなかった。


「勝ったんだから、俺がいつどんな時に此処に来ようとお説教はナシな!」
「ぐぬぅ…」
「あと、俺の告白の返事は?」
「それは決まってるよ。ごめんなさい」
「何でだよ!おかしいじゃん!!」
「何がおかしいものですか」
「今の流れ的に!」
「だって、君が必死に私を追い掛けているの、見てて気持ちが良いんだもん」


だから、まだ。


「あんた、ずっりぃよな。ホント」
「何とでも言うがいいさ、私の可愛いドロップアウトボーイ」
「んな事言ってる間に、俺があんたを諦めたらどうすんの?」
「悲しい」
「ずりぃ!!!」
「とりあえずあんたじゃなくて、ナマエって呼んでよ。十代君」


どうして彼は、歳上で、何の魅力もないような女をこうも気にかけているんだろうか。でも、彼の頬が制服と同じくらい真っ赤になっているのは、見ていて気分が良いものだ。理由なんて要らないかもしれないと思う程には。


「次はこうはいかないからな!!覚悟しとけよ!!」
「これじゃどっちが勝ったのか分かんないね」


(Happy Birthday 2020.8.31)




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