背後から十代の腕に抱き締められている。私の息は浅く、荒い。開いた瞳孔が光を取り込みすぎて、世界がやけに眩しい。嗚呼。気持ちが良い。


「なぁ、聞こえているか、俺の声。」
「ん、…うん」
「そうか。だったら、いい。」


動悸がする。私の跳ねる心臓を十代の掌が押さえる。肩口に彼の鼻先が滑って、そのままそこに唇が触れた。
いつまで経っても治らない、私の癖。デュエルをしていると、周りが見えなくなる、癖。相手を上から叩く事が快感に変わる。楽しんでいる。傍で見ている十代が、酷く悲しい瞳をしていても。それでも彼は私を止めようとはしない。勝つために手段を選ばない、それでもいいと彼は言った。勝ち負けなんて拘るなとは言わない、勝て。俺は、ナマエがナマエであるならば、それでいいのだ…と。


「その代わり、お前がお前を失うようなことがあるなら、その時は…俺がお前を倒す。」


私は、もう彼無しでは、生きていけないんだ。


「気持ちよく決まったな。コンボ」
「うん、」
「相手の伏せカード、警戒しなかったのか?」
「…どの道、あの場面で相手に対抗策があったら、勝機は無かったから」
「それもそうか。お前、手札は使い切ってたしな」
「…ダメだったかな」
「いや、いいのさ。勝てば。今期、調子が良さそうだな」
「十代が、いるから。十代がいなくちゃ、私…」
「…ハハ、照れるなぁ。」


今シーズンの大会は、参加する決闘者がランダムマッチングの予選勝利数を基準に選抜され、その中のベスト16が更に決勝進出となる。昔開催されたバトルシティのような形式だ。私は無事にベスト16に残り、決勝へと駒を進めた。各地を旅しているという十代は、その噂を聞きつけ突然私の激励に来てくれたということ。あまりにも変わらない私のデュエルに少し安堵さえ覚えたと、彼は言う。そうだ、学生時代から私はこうやって冷めやらぬ興奮を十代に治められていたものだ。
十代がいないと、というのはかなり的を得ていると思う。私はプロになってから、今まで成績奮わずにいた。私程度の実力では、プロなんて無謀だったかもしれないけれど。それはきっと、十代が傍にいなかったからだ。私の衝動を制御できる彼が此処にいるだけで、私は何だって出来る、誰にだって負けやしないって、そう思える。


「だいぶ落ち着いたみたいだな。」
「…うん、ありがとう」
「次は3回戦か?いつやるんだ」
「明日、ねぇ、…最後まで見ていって。そうしたら、私きっと」
「分かってる。」
「絶対だよ、絶対最後まで、」
「俺がナマエに嘘ついたことあったか?」
「…いつも嘘ばっかり。」
「酷ぇな、傷付くぜ」
「……傍にいて十代、お願い」
「その代わり、負けんなよ?」
「ん、…うん、ありがとう。好き」
「ナマエは、俺みたいなのには勿体ないよ」
「…ばか、嫌い」
「今好きって言ってただろ」
「うるさい」


翌日、彼はこの地を離れていた。




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