「エドって、本当に私の事好きだよね」


私の部屋にやってきたと思ったら、窓際のソファにゆるりと腰掛け、デッキを崩して一枚手に取っては悩み、一枚手に取っては悩み。こういったことは今回が初めてではなく、度々あった。彼は、別に私に用事がある訳でもなく、時間があるわけでもない…らしい。態々こんなところに来ているのだから、余程暇なのかと思ってそう聞いたことがあるのだが、ナマエと一緒にしないでくれと嘲笑された。その時の彼の顔は実に腹立たしいものだった。
エドが自分のデッキを眺めている時は、大抵私も自分のデッキを眺めている。私は無言で彼の傍にインスタントのコーヒーを淹れたマグカップを置いておく、それを彼は何も言わず手に取り口にする。天下のプロデュエリストに安物のコーヒーを差し出す私も私だが、それに文句の一つも言わない彼も彼だ。文句を言われたら次回から水にしようと思ってはいるものの、なかなかその機会はやってこない。
私はカードに視線を遣ったまま、何となく上記呟いた。どうせまた嘲笑されるだろうけど。彼の反応は予想の通り、というかそれ以上で、動揺することはおろかカードから視線を上げることすらなかった。


「寝言は寝て言うものだ」
「うーん、じゃあ寝てるってことにして」
「なら、大人しくベッドに横になっているといい」
「おおっ、誘い文句?」
「…本当に可哀想な奴だな、ナマエは」


そうして、また嘲笑されたのであった。


「もう少し有益な会話をしたらどうなんだ。と、言っても無駄だろうが」
「会話をすること自体は嫌じゃないんだね」
「まぁ、付き合ってやらんでもない」
「へへへ、エドやっさし〜」
「気持ちの悪い笑い声を上げるな」
「ちょっと。女の子に向かってその言い草、モテないよ」
「そんなもの、僕には必要ない」
「エドには私がいるもんね!」
「聞かなかったことにしよう」


下らない会話の応酬。お互いデッキを見ているけれど、じゃあデュエルで実際回してみよう、とかそういったことにはならない。そもそも私程度のデュエリストでは彼の足元にも及ばず、練習台にすらならないだろうから。本当に、ただただ同じ空間で、同じ時間を過ごしているだけ。それでも、私はこの時間が好きだし、彼の傍は居心地がいい。彼もきっとそうなのだろうと思っている。視界の端でデッキを纏め、カードホルダーに入れている彼の姿が見える。どうやらお帰りになるようだ。私も同じタイミングで、カードを片付け始める。


「邪魔をした」
「いーえ、何のお構いも出来ませんで」
「そうだな」
「そこは否定してください…」


相変わらずの毒舌が私を貫く。私の手元のデッキから一枚のカードが床に落ちた。拾おうと私が身を屈めるより先に、エドがカードを拾い上げてくれる。


「前から思っていたが、このカードはナマエのデッキとシナジーがないだろう。使用は控えるべきだ」
「え、」
「…何だ、その顔は。」
「エド、私がデュエルしてるとこ、ろくに見たことないでしょ。そんなことよく分かるね」
「……プロは自分の使っていないカードでも、効果くらい把握しているものだ」
「へぇ、さっすが」


差し出された一枚のカードを受け取る。彼の助言通り、このカードはデッキから一旦抜いてみようと思った。去っていくエドの背中に向かってありがとう、と投げかける。


「エドのそういうところ、好きだわ」
「……一つ、忠告しよう」
「うん、何?」
「ナマエは安易に好きという表現を使うだろう。そういった言葉はむやみに男へ言うものじゃない、勘違いをする馬鹿もいる」
「えー…エドになら構わないでしょ」
「確かにな。なら、もう一つ忠告だ」


ドアノブを掴み、動きを止めた彼は此方を振り返るでもなく、最後にこう言った。


「他の男には言うなよ」




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