「なぁ、ナマエ」
「なに?十代」
「今日は何の日だっ」


1時間目の授業が終わった教室内。絶対に来ると思って身構えてはいた。今日は十代の誕生日。勿論知ってる。きっとこれから色んな人のところにそうやって言って回って、プレゼントを催促するんだろう。「さぁ?」そう考えると何だか癪に思えてきて、私は敢えて知らないふりをした(ふふふ、今日の私には作戦があるのだよ)。すると目の前でにやにやしていた十代は、私の返答を聞いて慌てはじめた。よし、意表をつくことが出来たみたい。余裕綽々、自信満々、そしてどことなくゆるい彼。その雰囲気に私はいつも翻弄されているのだから、たまには優位に立たせてほしい。


「私吹雪さんに呼ばれてるから、もう行くよ?」
「えっ、ちょっ」
「じゃ、またね十代」
「ちょっと待った!!」


響く大声で私を呼び止めた彼。席を立った私の腕を掴み、俯いている。「…十代?どうしたの?」そう言うと、どうやら彼は折れたようだ。「あのさ…今日俺誕生日なんだよ、ね!」「へぇ」此処までは想定内だ。こんなに余裕のない十代は初めて見た、それでよしとしよう。後はネタばらし。ちゃんと知っていたよ、おめでとう、って言って。十代の誕生日に間に合わせるように、ほぼ絶版とされていたレア中のレアパックを購買で手に入れておいた(協力してくれたトメさんありがとう!)。これを渡せば、彼はきっと飛び上がるほど喜んでくれるに違いない。


「…うん、あのね」
「だから今日一日くらい一緒にいてくれないか!?」
「はい…?」
「ていうか吹雪さんのとことか行くな!!」


さっきまで腕を掴まれてるだけだったのが、いつの間にか十代の腕の中にいた。あれ、どういうことなの?教室の随所からきゃあきゃあと高い声が聞こえていているが、私の処理能力が追い付かない。「俺の傍にいてくれよー…」私を抱きしめる十代の腕にぎゅう、と更に力がこもる。彼のこんなに切ない声、初めて聞いた。


「なんでわざわざ俺の誕生日に他の男と会うんだよー…」
「えっ、なに?それが嫌なの?ていうかそれだけ?」
「それだけとか言うなよ、俺にとっちゃ重要なことなの」
「別に私が吹雪さんと会うのなんていつものこと」


そこまで言い掛けて、十代は私の言葉を遮って言い除けた。「誕生日くらい好きな女の子と一緒にいたいんだけど」と。今まで抱きしめられていて顔が見えなかったけど、少しだけ身体を離されて、漸く彼の表情を見た。割と真面目な顔をしている。「好き?」「おう」「誰が誰を」「俺がナマエを」ここにきて、ああ、やはり翻弄されるのは私の方だったんだなと気付いた。


「十代私のこと好きだったの?」
「まぁな、ナマエは?」
「うん、私も好き」
「…お前も俺のこと好きだったのか?」
「まぁね」




(誕生日も覚えてたしプレゼントもありますよーだ)(はっ!?騙された!)(人聞き悪いな、作戦と言ってくれたまえ)(でもまナマエが手に入ったから、いっか)(強がりめ)




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