「ついてくるな」


目の前の凌牙は冷たくそう言った。私に背を向けて。最近の凌牙はおかしい。前から学校にはあまり来てなかったが、今は全くと言っていいほど来ていない。家は近所でも、家に帰ってきてもいないようなので、実質凌牙を見るのはかなり久しぶりだったりする。下校途中街で見つけて、一緒に帰ってきてる友達をほっぽりだして追いかけて来てしまった。そうして呼び掛けたのだ。「凌牙、あのさ」そうしたら、これだ。


「アンタ、今どこで何してるのよ」
「…何だ、説教かよ」


説教なら聞く気はないな、と立ち去ろうとする凌牙。こちらに振り向きもしない。さすがに苛立ち、履いていた靴を脱ぎ、凌牙の後ろ姿目がけて思い切り投げた。「しらばっくれんな!学校も行かないで何してるか聞いてるんだよ!」そう叫ぶと、どうやら私の靴が頭にクリーンヒットしたようで、キレた様子の凌牙が振り返る。あ、やっと顔見れた(しかし表情は歪んでいる)


「お前には関係ない、だろッ!!」


凌牙は私目がけて思い切り靴を投げ返した。うわっ!号速急!こんなん取れるか阿呆!そして私は悟った。これを取りにいく間に逃げられる…!足早に去ろうとする凌牙にくるりと向き直り、その背にダイレクトアタック(という名のタックル)を決めた。凌牙はすごく苦しそうに呻いていた。「何で構うんだ、俺に!」私をひっぺがそうとしながら彼は私に怒鳴り付けた。「凌牙じゃなかったら構わないわよ!」叫んだ後にお互いの動きがぴたりと止まった。今、私、何て言った…?


「い、今のは忘れてください」
「…馬鹿じゃねぇのか」


馬鹿とは何だ馬鹿とは!私はアンタのことが心配なんだよ!「おとなしく心配されてくれないかな」そう言えば、先ほどまで必死に私をひっぺがそうとしていた彼の腕に、優しく抱き締められたではないか。えっ、ちょっと、「おとなしく抱き締められとけよ」声が、切ない。私はこんなに切羽詰まったアンタを今まで見たことなんてなかったよ。


「まだ俺にも居場所があるって思っても、いいのか」


私を抱き締める腕に力がこもる。彼の心が泣いている気がした。「当たり前でしょ」また一緒にデュエルして馬鹿やって、大笑いしようよ。私は今のアンタを見ているのが、つらいよ。早く帰ってきてよ。「泣くんじゃねーよ…」ふざっけんな、何でそんなだるそうに言うんだよ。女の子が泣いてんだから優しくするとかなんとかしろよ。しかも幼なじみだろどうにかしろよ。


「お前は絶対に巻き込みたくない」
「…うん」
「静かに待ってろ」


必ず帰る。彼はそう言ってから私の肩口に顔を埋めた。アンタはいちいち背負いすぎてるんだよ。私は知っている。アイツに負けてからデュエルをやめた日なんてないくせに。あれから何度もデッキ組み直してたくせに。それでもアンタは。


「週末デートしよ」
「断る」
「何でだよ!!」
「何でもだ!!」


そう、私たちいつだって素直じゃない。




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