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「鮎川先生、彼は…」
「妃さん、大丈夫。こっちよ。」


此処デュエルアカデミアには、この世界を滅ぼす程の力を持つがゆえに封印を施されたという三幻魔のカードが眠っているという。現在そのカード達はアカデミアの地中深くに安置されており、その封印は七つの鍵によって守られている。…何故今こんな話をするのかといえば、どうやらその三幻魔のカードを求め、この島に乗り込んできている者達がいるというのだ。そしてその者達から七つの鍵を守る為、校長によって選抜された、デュエルにおいて屈指の実力を持つ学園内の決闘者、その七人が一つずつ鍵を所持することとなった。
我が校の決闘者達が闘うのはセブンスターズ、と名乗る謎の集団だ。その者達は、闇のデュエルという特殊な状況下でのデュエルを仕掛けてくるという。また闇のデュエルでの敗北者は魂を失ってしまうのだと、彼は言っていた。真面目な顔をして何を馬鹿なこと…と思ったけれど、彼はこんな嘘をつくような人ではない、どうやら真実らしい。そう、彼は学園内の選抜された七人の決闘者、その一人だった。

そして彼は、セブンスターズとのデュエルに、敗北した。

自身が巻き込まれているという摩訶不思議な事件を私に語った彼は、数日前、突然私の前に現れなくなった。頼まずとも毎日、僅かな時間でも顔を見せに来ていたというのに。学園内外を宛もなくふらりと歩き回ったが彼の姿を見つけることは出来ず、どうやら彼は学校そのものを欠席しており、寮にもいないということが分かった。それから一日二日と経ち、まさか彼の身に何かあったのだろうかと考えていたところ。


「亮はセブンスターズに負け…魂を奪われてしまったの」


天上院明日香。私の端末に向け彼女からのアクションがあり、伝えたいことがあると呼び出された。場所は港にある灯台の麓、彼女は一人そこにいた。彼女とはあれきり交流はないというのに、態々彼の近況を伝える為だけに彼女は私を呼んだのだという。どうして私にそんなことを、と問えば、彼が散る間際貴方の名前を呼んだから、と言った。
闇のデュエルによって魂を失った、彼。彼という存在は、この世界から跡形もなく消えてしまった。もう何処にもいないのだ。私と彼は出会って間もないというのに、彼と語り合うことも、笑い合うことも出来ない…別れの言葉もなく、二度と彼と会えなくなってしまった。そう思えば、酷く意識は虚ろになり、呼吸さえもままならくなった。
開口一番、彼女は上記呟き、私は時間をおいて漸くその事実を受け止め、短く了解の意を示した。取り乱すことはなかった。すると私の様子を見た彼女は大きな目を更に大きく開き、驚いていた。


「貴方、こんな話を信じるのね…」
「…冗談を言う人ではないでしょう、彼も、貴方も。」
「私も、自分の目で確かめるまでは信じていなかったものだから。…聡明ね。貴方こそ、鍵を守るべき決闘者だったのかもしれない」
「…それは買い被りすぎ。」
「いいえ、思っていた通りの人だった。亮に貴方の話をしたの、私なの」


彼女の言葉に、私は瞬きを一つ。貴方のデュエルは本当に素晴らしかった、だから彼に貴方のこと話したの。そうしたら、彼も貴方に興味を持ったみたい、と彼女は語る。そういえばあの日彼が私の前に姿を現したのは随分唐突なことだったから、彼女から話を聞いたとすれば合点がいく。彼女との一戦で、彼女は私を高く評価してくれていた。私の性格が祟って交流さえ生まれなかったものの、彼女もまた私と接点を持ちたいと思ってくれていたようだった。
私の前に掌を差し出して、彼女は言った。きっと敵を倒せば、彼は帰ってくるからと。


「亮は必ず私達が取り戻す。信じて、彼を待っていてあげて。」
「…うん、お願い。貴方も気を付けて」
「ええ、…また話しましょう。あと、デュエルも。…次は負けないから。」
「勿論。」


そうして彼女と握手を交わし、その日は別れた。

…あれから数日後の今日、再び彼女から連絡があった。彼を敵の手から取り戻したと。彼が、帰ってきたのだ。端末を持つ手が震えた。連絡を受けたのは夜だったが、構わず寮の部屋を抜け、保健室へと走った。そして冒頭へと至る訳だ。


「…聞いたよ。負けたんですってね、不甲斐ない」
「……返す言葉もない」
「所詮貴方も“学園”最強、ということのようね。」
「手厳しいな。もう少し労わってほしいものだ」
「あら、これでも足りない?」


ベッドに横たわる彼の傍らに腰掛け、彼の顔を覗いた。彼の敗因は彼女…明日香から聞いている。彼が勝機を掴む直前、相手に弟である丸藤翔を人質に取られてしまい、彼は手が出せずにそのまま自らの魂を犠牲にしたと。…だとしても、その判断は余りにも身勝手ではないか…彼ばかりが悪いわけではないけれど。そんな行き場のない怒りが、私の唇を震わせた。彼は緩慢とした動作で私の手を取り、私を見つめる。


「すまない」
「…馬鹿ね、貴方。」
「お前をそこまで悲しませるとは考え至らなかった、不謹慎だが…、嬉しく思っている」
「……貴方が言ったのよ、私のこと知りたいって。それなのに、…信じられない。勝手な人だとは思ってたけど、どこまで勝手なのよ」
「真琴…」
「も、う会えないと思った、貴方と、…二度と言葉を交わせないって。こうして触れる事だって、もう」
「真琴、」


彼は私の言葉を遮るように、上体を起こし、繋いだ手を引くとその腕の中に私を閉じこめた。彼を目の当たりにして私の感情はぐらぐらと揺れ動き、言葉は止め処なく溢れてきた。不安だった。傍に居てほしかった。絶望した。突然居なくなった彼に、何の前触れもなく一生会えなくなったと思えば。今彼が帰ってきて、私は実感したのだ。怖かった。いつの間にか、彼を失うことが、こんなにも。温かな彼の胸の内へ包まれ、私は嗚咽を漏らす。彼が、私の心を支配している。


「…泣くな、真琴」
「嘘つき、馬鹿、最低よ」
「すまない…」
「貴方が負けるところなんて見たくない、もう負けないで。誰にも、……私を一人に、しないで、置いていかないで」
「…ああ、分かった」


私は、もうこの人がいなくては───


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