18


視界が白く染まっている。己の身体へ吹き付ける猛烈な吹雪。私の手を取る亮の存在以外何も認知できないまま、私はただ前へと、手を引かれるまま、歩みを進めていた。

───エドは、アモンに破れた。アモンの仕掛けてきた戦術は私達の想像を遥かに超えた恐ろしいものだった。エクゾディア、そしてエコーの命を使い召喚されたエクゾディオス。彼はあの禍々しい力を具現化させるためにエコーを欲し、その命を犠牲としたのだった。エドは激昂し、必死に勝利の可能性を模索していた、しかし、…本当にあと僅か、あと一歩の力が及ばなかった。

友を救え。僕達の想いを繋いでくれ。最期にエドが叫んだ言葉が、耳から離れない。

エドを失った私達は、ヨハンは生きているということだけを信じて、進んでいた。その道に宛てはない。十代はがむしゃらに歩き続け、歩みを止めることはなかった。私達はそれに続いていく。亮はしっかりと私の手を掴んで、離そうとしなかった。離してしまえば、私が立ち止まってしまうと分かっている。ヨハンも、エドも、私を支えてくれる人はもういない。エドは、君には亮が居ると言ったが、…亮と彼らは同じじゃない、それぞれが唯一無二で、心の置き方がまた違う代えのきかない存在だった。彼らが居たから、私は今彼の隣に居られる。月も太陽もない世界で人は生きていけないといったように、彼らはまさしく私の中のそれだったのだから。…彼らと出会う前の自分なんて、もう思い出せない。だから、私はもう───

今自分達が何処に居るのか、この先に何があるのか。何も分からない。どれくらい歩いてきたのだろうか、いつの間にか私達の目の前に大きな門が現れた。私達の背丈の倍の倍以上、重厚感のある扉。呼んでいる、そう呟いた十代はその門へと向かい先に進もうとした、しかしそれを引き止める人物がいた。…亮だ。この先にヨハンが居るんだ、何思っての根拠かそう語る十代に対し、今のお前に、ヨハンを救うことが出来るのか。お前には闘いに挑む覇気がまるでない。まるで扉の向こうに逃げ込もうとしているようだ、と言ってのける亮。十代はすぐに視線を逸らし、もう精一杯なんだ、と絞り出す様な声で呟く。…確かに十代は、もう以前の十代とは別人のようだ。この世界に来てからというもの、彼は様々な経験をしすぎた。仕方ない、と片付けるには事が重過ぎる。特に彼を大きく変えたのは、覇王として行動していた際の自責の念。彼は仲間だけでなく、数えきれない程の罪のない人々の命を犠牲にした…私達には、その重圧は測れない。亮は、今の十代にはヨハンを救えないと感じたのだろう。…だが、それを言ってしまったら、ヨハンを救えるだけの力を持った人は私含めこの中には居ないように思えてしまった。しかし、それでも私達はヨハンの元へ辿り着かなければいけない。そうでなければ、これまでに散っていった仲間の想いは浮かばれない。亮の問い掛けに対して返事をしない十代は、そのまま門の扉に手をかけた。そこは通さん。再び亮は大きく声を張り上げて、デュエルディスクを起動したのだった。


「な、…やめてよ、亮…!」
「十代!ヨハンを助けたいのなら、デュエルディスクを構えろ!!」
「待って、まさか貴方…!?」
「下がれ、真琴!…デュエル!!」


亮と十代が此処でデュエルをしてしまえば、決着の際どちらかが此処で倒れてしまう。そんなことは誰も望んでいない。亮も、分かっている筈なのに…それよりも今の十代の不甲斐ない姿を見ていられない、ということなのだろう。鬼気迫る表情の亮に、動揺する十代はデュエルディスクを構えようとしない。痺れを切らした亮は、自分のターンを高らかに宣言し、カードをドローした。
亮はアーマード・サイバーンを召喚、バックに一枚伏せ、ターンエンド。ターンが回り、仕方なくデュエルディスクを構えた十代は手札を見て酷く動揺していた。そして、E・HEROクレイマンを攻撃表示で召喚。亮はその手に対し鋭く噛み付いた。クレイマンの守備力は2000、召喚するなら守備表示が妥当だ。意味もなく、攻撃力800のモンスターを立てるなど悪手でしかない。十代はそのままバックに三枚のカードを伏せ、ターンを終えてしまった。次のターン、亮がドローしたのはパワー・ボンド。それをそのまま発動し、手札の三体のサイバー・ドラゴンを融合。召喚されたのは亮の切り札、サイバー・エンド・ドラゴン。攻撃力は、倍の8000となる。それだけではなく、亮はサイバーエンドにアーマード・サイバーンを装備させ、その効果を発動。装備対象のモンスターの攻撃力を1000下げることで、フィールドのカードを一枚破壊できる。亮はこの効果を四度使い、クレイマンを含む十代のフィールドにあった全てのカードを破壊した。…破壊された十代の伏せカードは、正しく使用すればこのターンを乗り切れた筈のものばかりだった。アーマード・サイバーンの効果を使用したことにより、サイバーエンドの攻撃力は4000まで下がったが…その一撃が通れば充分だ。十代には、サイバーエンドのダイレクトアタックを回避する手立てはない。膝から崩れ落ちた十代、手札からは融合のカードが零れ落ちた。その項垂れた姿に、亮は激昂する。ああ、このままでは、亮が十代を…───


「このっ…!!…消えろ、十代!!!!」


亮が激しく叫んだ、その時。サイバーエンドの姿は空気中に霧散し、亮はくぐもった呻き声を漏らして地面に蹲った。全身に鳥肌がたつ。思わず彼の名を叫び、駆け寄る。彼は己の胸元を掌で押さえ込み、額には脂汗、呼吸すらままならない状況だった。彼の表情は酷く歪んでいる、私の視界が滲む。


「亮、…亮っ…!!」
「っ、…真琴、」
「…ん、うん、…」
「ぐ……、十代っ…お前にはヨハンは救えない…!!お前を倒し…っ俺が、最強の敵と合間見えよう…っ!!」


十代は、亮が懸命に放った言葉を聞いた後、静かに融合のカードを拾い、何処かへ去っていってしまった。次いで私達の元に駆け寄ってくるクロノス教諭、翔君。亮は翔君に向かって途切れ途切れに言葉を紡ぐ。十代を最後まで見届けるんじゃないのか、と。それを聞いた翔君ははっと息を呑み、分かった、と言って小さくなっていく十代の背を追い掛けていった。
この世界に来たときは、あれだけいた人数も…今は、この五人にまで減ってしまった。こんな所で行動を別にしている場合ではない、…でも、結局こうして、私達は衝突してしまった。亮の目的は、十代の目を覚まさせること。ヨハンがこの世界に居るというのなら、全ての事象の原因は以前と同じくユベルにあるのだろう。ヨハンを利用し、十代をこの世界に誘き寄せ…その仲間達を傷付けることで十代を心の闇へと落とした。そして覇王として覚醒した十代は多くの命を犠牲にし、この世界を統べた。結果今の十代は…手札の融合を発動できないほど、罪の意識に苛まれ、心に傷を負い衰弱してしまっている。ここまでの出来すぎたシナリオも、ユベルの仕組んだことと考えれば合点がいくのだ。それならば、ヨハンはユベルに捕らわれているのではないか───…というのは、エドと亮の推測で。その推測通りならば、ユベルの欲しているものは…十代。この状況を覆せるのは、十代しかいない。事態を好転させるには、十代自身が立ち向かうしかないのだ。その為に亮は、こうして…。幾分呼吸の落ち着いた亮を横たわらせ自身も傍らに座り込むと、彼は徐ろに手を持ち上げ、私の指を力無く掴んだ。その様子を見たクロノス教諭は、周囲を見回ってくると言って私達から離れていった。…ここからの会話は、二人だけのもの。


「……真琴、…」
「やめてよ……私の心臓が止まるかと思った」
「…仕方が無い。十代がやらないというのなら、俺がやる……、…」
「……最期まで…見届けるから。貴方の選んだその強さ、命の輝き」
「…いい子だ。」
「こんな時に茶化さないで、ホント最っ低。」
「フ、…その顔も悪くない、な。」
「……見せてくれるんでしょう、頂からの景色を」
「…俺には、成し遂げられる」
「貴方と出会わなければ、…そこに辿り着いていたのは私だったのかも、ね」
「…それはどうかな。」
「……何よ、私には出来ないって言いたいの?」
「…お前に、出会えてよかった」
「…馬鹿。」


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