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「エド、…またなの?」
「これはこれはお嬢様、お休みになられていたところ、騒ぎ立てて申し訳ありません。」
「ちょっと…それ、いつまで続ける気よ」
「つれないな、真琴。折角趣向を凝らしているんだ、君も少しは合わせてくれてもいいだろう?」
「もう…。遊んでないで早く終わりにしてね」
「フフ、畏まりました。」


私達は相変わらずこの世界を彷徨い続けている。ヨハンの情報も掴めず、十代達の足取りも不明瞭。そんな中、どうやら今晩はこの洋館へ覇王軍の一派が尋ねてきたようだ。広間の騒ぎを聞いて来てみれば、私の目の前にはBloo-Dを召喚しているエドと、その覇気に尻餅をついているゴブリン。…そうこうしているうちに、何処かの部屋から叫び声が聞こえてくる。恐らく亮の方にも敵が居るのだろう、もう決着がついたようだが。
覇王が遊城十代と名乗ったのは本当か。エドの問い掛けに、ゴブリンは頷いた。…思わず溜め息をつく。覇王、というのは最近良く耳にするワードだった。この世界に突如現れたという勢力で、世界を支配することを目論んでいるようだ。その圧倒的な力でモンスター達を纏め上げ数々の村を滅ぼし、民を惨殺し、制圧を繰り返し…その軍勢は大きく広がりつつあるということ。軍勢の中心人物、大将である絶対強者───覇王。人々が畏怖するその存在、それこそが、遊城十代。仲間を失い、心の闇に支配された、遊城十代…そういう噂だ。私達はその噂の真偽を確かめる義務がある。もし本当に、十代が覇王なら。ヨハンを救うことを二の次に、この世界を支配する、なんて下らない目的の為に罪のない人を…殺して回っているのなら。本当に明日香達を犠牲にして、自らが生き残ったというのなら…何にせよ、私は彼を引っ叩かなくては気が済まない。噂は噂に過ぎないのだが、自分の目で見たものしか信じない、と…言い切れないほどには、最近の情報収集で少々証拠が出揃いすぎてしまった。何と言うか、覇王のデッキには、E・HEROが入っているそうだ。…もう、頭痛がする。
覇王はこれから、軍勢を生き残っている村に差し向け、総攻撃を仕掛ける…と画策しているそうだ。今まで制圧してきた村にいた決闘者は、全員拉致され収容所に集められている。そこで洗脳を施され、覇王軍の一員となる…と、ゴブリンは語る。他に知っていることは特にないと言うので、エドは片手を振り翳す。これで止めだ。構えたBloo-Dに、ゴブリンが小さく悲鳴を上げ命乞いをしているが、エドは特に聞き入れる様子はない。


「お前が仕掛けてきたデュエルだろう。デュエルするということがどういう意味を持つか、知らないとは言わせない。」
「俺が悪かった!た、助けてくれぇ!!」
「…どうするの?エド」
「生憎、僕達は正義の使いだとしても…ダークヒーロー系でね。」
「ふふ、それは言えてる。」


───暫くして、亮が広間に戻ってきた。亮の方は秒殺だったようだ。得た情報に、大した差異はない。エドは考え込み、随分と出来すぎた話だと言った。私達が以前迷い込んだ異世界、聞いていた様子と此処は随分違った。そしてヨハンは行方不明、十代は心の闇に堕ちる。全てのタイミングが良すぎるのだと。…これら全てユベルという精霊が仕組んだというのなら、ヨハンを餌に、まんまと十代をこの世界に縛りつけたということになる。作為的だと考えるのは、あながち間違いでは…というか、的を得ているのではないか。

覇王が動き出す前に、私達は決闘者が集められているという収容所を襲撃し、覇王軍の戦力を削ぎ、その上で覇王城へ乗り込み覇王を直接叩くという作戦を立てた。収容所を守っていたモンスターは大したことはなかった、言うまでも無く亮が全て秒殺してしまったといったところ。捕らえられていた決闘者達を全員解放し、この場所に留まるのは危険だと判断した私達は、一旦近くの村へと身を寄せることとなる。


「貴方…オブライエン!?無事だったのね…」
「君は、真琴!エド、ヘルカイザーも一緒か…君達もこの世界に来ていたんだな」
「ねぇ、…貴方一人?他には誰も居ないの?」
「…ああ、俺はジムと共に行動していた。だが…ジムは、覇王に…」


そこにいたのは、オブライエンだった。彼はたった一人でこの世界を生き抜き、此処へと辿り着いていたようだ。聞く限り、十代の行ったデュエルで明日香達の命が奪われたこと、その際に…ヨハンの死を知ったこと、そのせいで心の闇に落ち覇王となってしまったこと、そして十代を救う為にジムが彼へと挑み、犠牲となったこと…その全てがオブライエンの目の前で起きた、真実のようだ。───私達は今、一体何と闘っているのだろう。そんな事を、考えた。

収容所から連れてきた決闘者達に村を任せ、私達は四人で覇王城へ乗り込むことを決めた。オブライエンは一人でもそうするつもりだったようだが、合流した今、行動を共にしない理由はない。ジムは命を懸けて十代を救おうとした、オブライエンはその意志を引き継ぎ、十代を取り戻そうとしている。私達はそのサポートに回ることにした。十代を追って行った翔君の安否も気になるが、私達も十代を追っていれば、いつか動向も分かる筈だ。急激な変化には裏がある、エドがそう呟いた。十代の事を言っているのだろう。


…ヨハンは、死んだ。


その事実が十代を心の闇に落とし、覇王にしたという。オブライエンの言う通り、もし本当に、…もうヨハンがこの世にいないのなら、私が、私達が今此処に居る意味なんてない。私達を助ける為に身を挺した彼のことを、私達は助けることが出来なかった。この世界に来た事を後悔している訳じゃない、だが己の無力さには、ほとほと呆れるものだ。最早涙も出ない。亮は無言で私を見遣る。
私が亮以外を選べないと知って、ヨハンは私を亮の元へと返してくれた。それなのに彼はこんな私を想ってくれた、ずっと守ってくれた。…彼は、私を、皆を優しく温かな光で包み込む太陽だった。彼が私の幸せを願うのなら、私だって彼の幸せを願わせてほしかった。このままお別れなんて、嫌だ。…そんなことしか考えられない自分も。


「真琴…すまない。君も彼と特別な絆を持つ友人だったというのに…俺は何も出来ず、覇王の前からも逃げ出して…」
「そんな、…貴方のせいじゃないわ、でも……ヨハン、…ヨハンには、…もう会えないの?」
「…ヨハンは死んだ、と…敵がそう言っていたんだ。」
「それを見た者はいるのか?」


オブライエンの言葉に、鋭く切り返した亮。オブライエンは、それは誰も見ていない、…そう言った。


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