1


丸藤亮に目を付けられた。

いや、目を付けられたというのは些か言いすぎか。私が彼の目に留まるような行動をしてしまったのだろう。というのも、天上院明日香…私と同じ一年にして既に“オベリスクブルーの女王”と呼ばれている実力の持ち主だが、授業の一環で彼女と対戦カードを組まれ、結果デュエルで私が勝利したのだ。それはもう彼女を寄せ付けない一方的な展開であった。元々目立つことを好まず交友関係も広くない、それに座学の成績はそこそこであったから今までそう生徒の話題に上がることも無かった私は、そのデュエルで一気に生徒間の知名度を上げてしまったという訳だ。


「俺とデュエルしてくれないか。」


この人は我が道を行く、という言葉が非常に似合う。それが初対面の印象だった。オベリスクブルー三年、丸藤亮。デュエルアカデミア最強の決闘者、帝王───カイザー亮と呼ばれる彼。その名を知らない生徒など、此処には存在しない。生徒で賑わう昼食時の食堂で、ひとりドローパンに齧り付く私の眼前。ざわつく生徒達のことなんてお構い無しに、私の許可なく相向かいの席へと座った彼はそう言った。自分とデュエルをしてほしい。それを聞いた周囲の生徒達が、大袈裟に騒いでいた。カイザーのデュエルが見られる。それも、女王と謳われる天上院明日香を倒した女子とのデュエルだ、と。…こうして彼に声を掛けられたのも先の一戦のせいだ。それがなければ、きっと私の人生で彼と接する機会なんてなかった筈だろう。


「申し訳ないけど、お断りするわ」
「…そうか。だが、何故だ?」
「私きっと貴方を倒すわよ。そうしたら、貴方の評判が下がるでしょ」
「フ、…成程。」


正直、虚勢だ。天上院明日香を倒したことならまぐれではないと言い切れる、が…彼と渡り合うだけの実力があるとは胸を張って言えない。カイザー亮の無敗伝説は知っているし、実際デュエルしている姿も遠巻きに見たことはある。彼の強さは他に類を見ない、というのは私にも理解できる。デュエルはカードゲームだ、運要素だってある…やってみなければ分からないだろう。しかし生憎、何の理由も無く好機の目に自ら晒されにいくような性格ではない。溜め息をひとつ、席を立ち彼の前から去ろうとした、その時だ。立ち上がった彼に手を掴まれ、私は咄嗟に振り返ってしまった。


「俺達だけのデュエルにしよう。」


勝敗じゃない。君とデュエルで語り合ってみたい、ただそれだけなんだ。だから、どうかこの申し出を受けてほしい。彼は真っ直ぐに私を見遣り、そう告げた。きゃあ、だなんて女子の黄色い悲鳴が聞こえてくる。…この人は誰が見ていようが関係ない。己の目的を果たすことしか考えていない、そんな瞳。これだけ普段から人々の注目を浴びている彼のことだ、視線には慣れているのだろうが。…これで、彼は相手をリスペクトするデュエルなんてものを掲げている人なのだから驚きだ。どうだろう、我が道を行く、まさにそれではないだろうか…。


「来てくれてよかった。」
「…あんな場所で声を掛けるなんて、断るなと言っているようなものだわ」
「すまない、配慮が足りなかった…」
「貴方が何を考えているかは知らないけれど、私、やるからには勝つからね」
「ああ、大切な一戦にしよう。」
「……貴方、人の話聞いてる?」
「丸藤亮だ。亮でいい」
「さ、流石に知ってるわよ。…妃、真琴。」
「真琴…。綺麗な名だな」
「…何それ。口説いてるの?」
「フフ。宜しく頼む」


放課後、彼に人気のない場所に呼び出され、いつの間にか互いのデッキをシャッフルしていた。相手にデッキを返し、距離を取りデュエルディスクを展開させる。…流されるままこんなことになってしまっている訳だが、冷静に考えてみるとアカデミア一の決闘者と呼ばれる彼とのマッチアップというのは望んでもなかなか叶うことではない。彼の揺らがない信念、強さ、それには誰もが彼を尊敬せざるを得ないのだ。かくいう私も。それに、私の振るう刃が果たして彼の懐へ及ぶのかと、純粋に興味はある。アカデミア最強、その彼を私の力で粉砕することができるのか。…彼は、私のデュエルから何を感じ取るか。ここからの展開を想像して、ぞくりと鳥肌を立てた。

深呼吸の後、カードを五枚ドロー。先行は、私がもらう。


「「デュエル!!」」


Back




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -