朝はすぐにやってきた。騒がしい物音で目を覚まし、隣に居るクラウドを揺り起こす。部屋の扉を少しだけ開けると、そこは異様な光景に包まれていた。───黒い亡霊。…そんなようなものが無数に漂っている。その数は視認できる程では無い。夥しい量だ。見知った声が聞こえた気がして二階の部屋から廊下に出る、手摺から身を乗り出し下を覗くと、ティファが無数の亡霊と応戦している。クラウドは大剣を携え、レイは部屋に戻っていろと短く言いそのまま手摺を飛び越えていった。彼に言われた通り直ぐに部屋に戻り、布団を被る。私の身体は震え、焦点が合わない。…あれは、何?

どれだけ時間が経ったのだろう、クラウドが静かに部屋に戻ってきた。布団を被る私が震えていることに気が付いたのか、布団ごと緩く抱き締められた。大丈夫か、と呟く声。私は小さく頷いた。…聞けば、先程の亡霊達との戦闘でジェシーが負傷してしまったらしい。それでもバレット達の作戦は本日決行されるのだ。ビッグスは既に上へ潜入してしまっている、他にも今日の為に動いている人間が大勢いる。彼らは今更作戦を中止には出来ない…クラウドは欠員の補填として、バレット達と一緒に作戦に参加することになったようだ。


「レイ、ジェシーを置いて行く。ウェッジも残らせるが…あと、」
「マリン?」
「…ああ。頼めるか。」
「わかった。気をつけて」
「……どうした、レイ。この手。」


口では送り出そうとする言葉を吐くものの、私の手はクラウドの腕を掴んだままだった。依然として、震えている。恐れが、怯えが、私の心を支配している。自分でも、何に対してこんなに怯えているのか分からない。でも、この人を行かせてはいけない気がした。…でも、バレット達を助けてあげられるのは、彼しかいない。俯いた私の手をそっと取り、包んでくれるクラウド。その体温に、漸く少しだけ震えが止まる。僅かに顔を持ち上げれば、優しい視線が私を見つめていた。今の私は、彼にどんな表情を見せているんだろう。


「嫌な予感がする…か?」
「!どうして…」
「アンタは昔からそうだ。…レイの予感は良く当たる、と評判。」
「そう、なんだ。よく知ってるね」
「知ってるさ。…アンタのことばかり、見ていたんだ。」


こつり、額同士を合わせ、彼の瞳と私の瞳が近くなる。その色は明るいのに、深い。まるで空の様で、海の様でもあった。このまま落ちて、溺れてしまいそう。私がそう思うように、彼も私の瞳を見て同じことを思っているといい、なんて笑みさえ零れた。


「俺、レイの事が好きだ。」


突然、脳裏に浮かんだクラウドの、とびきり優しい笑顔。これは、きっと過去の記憶だ。頬を染めたクラウドが、笑みを向けて私を想う言葉をくれていた、そんな一瞬の景色。ああ、やっぱり私は以前から、この人に想われていたんだと自覚した。…すると、途端にこの距離が恥ずかしくなる。熱を持つ頬が、紅く染まっていないといいのだけれど。


「甘やかされてたんだね、私」
「いや。甘やかされていたのは、俺だった。」
「…そう?私、貴方にすごく大事にされていたんでしょ」
「互いにな。俺はいつも、守られて…いつもアンタに手を引かれて。…アンタが俺をここまで連れて来てくれた。」


クラウドは私の前髪に唇を寄せ、行ってくる、と微笑んだ。その微笑みが記憶の彼とぴたり、重なった。

ジェシーの腫れた足に氷嚢を乗せ、マリンとウェッジの四人でご飯を食べながら話をしていたところ、付いていたテレビから驚きのニュースが流れてきた。神羅のテレビ番組だ。反神羅組織アバランチが、たった今、伍番魔晄炉を襲撃しているという生放送。…彼らのことだ。テレビの画面には巨大な神羅の兵器と闘うクラウド達の姿が写し出された。レジスタンスの公開処刑、といったところか。神羅は何者にも屈しない。社長であるプレジデントの演説が流れている、ニュースキャスターは先の言葉を繰り返し言うだけだ。


「す、すげぇメカ…ッスね…」
「ちょっとちょっと、アレやばいんじゃないの…!?」
「…大丈夫よ。あの兵器、整備不良みたい。クラウド達なら問題ない」
「え。レイ…?」
「自立ユニットがおかしいのかもね、動きが鈍い。弾数も、…?……ジェシー、何その顔」
「いやー?やっぱあんた、ほんとにソルジャーだったんだなーって。あれ見ただけで、そこまで判断するなんてね。」
「レイ、さすがッスね!!」


目を輝かせたジェシーとウェッジに思わず怯む。レイ、かっこいい!と足元で喜ぶマリンを抱き上げて、無意識に呟いていた言葉に一番驚いたのは私だった。ジェシーには、記憶が無くなってもそんな可愛くない事言うなんて、職業病ってやつ?と笑われた。…確かにそうかもしれない。クラウドの語った以前の私、最初は突拍子も無い話だと思ったが、少しずつ取り戻してきているということか。果たして全てを取り戻した時、私はどうなるのだろうと、ふと考えていた。
テレビの画面の中、クラウドは的確に弱点である雷魔法を浴びせ、兵器は爆発。中継は途切れた。…これで、彼等は無事に帰ってくることだろう。そう信じ、引き続きマリンと絵を描いて遊んでいた。



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