私はとある病室を訪れていた。先の任務において私を庇い負傷してしまった兵士、彼が入院している部屋だ。本当ならもっと早く顔を出したかったのだが、突然クラス1stとなったことで寮の移動含め様々な手続きに追われ、来られたと思えば彼が退院する本日、となってしまっていた。様子を伺えば、彼の怪我は大事には至らず軽い検査入院程度で済んだとのこと。…本当に良かった。ほっと胸を撫で下ろす。よもや自分の怠慢がひと一人の命を危険に晒すとは、情けない以外の言葉はない。


「じ、自分なんかの為に…態々ご足労いただき、ありがとうございます…!」
「こちらこそ…ごめんなさい。私のせいで」
「いえ!上官を守るのが、我々の役目…ですから。」
「…、ソルジャーは銃弾一発当たったくらいじゃ死なない。次から助けなくていい」
「…すみません、でした。」
「……ごめん、違う。私、兵士を怪我させてしまったこと、結構ショックみたい」
「…でも、レイさんが、…自分を守ってくれましたから。」


彼の視線を追いかけると、その先はベッドサイドのテーブル、原型を留めていない程にひしゃげた一枚のコイン。私が日頃持ち歩いているコインのうちの一枚、…あの時、進路を決める為に放ったもの───そして、彼の手に渡っていたもの。彼はそれを胸ポケットにしまっていた、…そして私へと向かう敵の銃弾の前に踊り出たとき、銃弾はたまたまそのコインに当たった。勢いを失った銃弾は装備も相俟って彼の身体へ届くことなく…大袈裟に言えばコインが彼の命を守ったという出来すぎた話だ。しかし、事実彼は銃弾に貫かれることはなかった。これでは私が彼に守られたのだか、私が彼を守ったのだか分からない、なんて思わず苦笑を浮かべる。それから、大してない彼の荷物を纏めて無理矢理私が持ち、彼を寮の入り口まで送る事にしたのだった。遠慮がちに私の半歩後ろをついてくる、彼の金色の髪が揺れているのが見えた。


「大事を取って、もう少し休んでおいて。私から上に言っておく」
「…ありがとう、ございます。…あ、」
「…何?」
「レイさん、…1stになられたって。…おめでとうございます。」
「それは、貴方のおかげ」
「えっ…そんなことは、ないです。…自分は、ずっとレイさんに憧れてました。というか、レイさんは兵士全員の憧れで。…レイさんと話できるなんて、今も夢、見てるみたいで。」


自分はソルジャーになれなかったんです。彼は、自嘲気味にそう言った。…私は別にソルジャーになりたかった訳じゃない。彼らがソルジャーになると言ったから…彼らが目指したから私も目指した。彼らと一緒に生きていく為に。ただそれだけの、そんな生半可な気持ちでも私はこうして此処に辿り着いたのだ。彼と同じくソルジャーになりたいという気持ちを持つ人は、神羅内外に大勢居る。その全てがソルジャーになれるわけではない。でも、…幾ら適正が無かろうと、彼のような人こそソルジャーになるべきだとは思う。私は自分がどんな立場であろうが、そこには執着がない。そんな上官の為に命を張る兵士なんて、いてはいけない。
私は彼を振り返る。驚いた彼は歩みを止め、目を丸くした。透き通る、空の様な、海の様な澄んだ青色が、此方を見つめて。


「ソルジャー、目指したら?」
「……無理です。試験、受からなかった、し。」
「諦めてるの?」
「…才能の無い人間に、そんなこと言わないでください。」
「ふふ、否定しないんだね。諦めてないんだ」
「…!!」
「…ね、私と一緒に、行く?」


彼に向かって、手を差し出した。私の突然の行動に、彼はどうしたらよいものかと動揺している。統括には部下の育成をと依頼されているが、本来私はそんなキャラじゃない。着いて来られるよりも、着いて行きたいのだ。…それでも、此処に居る以上、彼らの隣にいるには任された仕事はやる遂げるべきかと腹を括った。彼に手を差し出したのは、兵士一人を贔屓したいが為ではない。彼に借りを作ったままの自分が嫌だという、私の我儘であり、気紛れ。暫く視線を泳がせた後、彼はおずおずと私の手を取り、緩く握ってみせた。


「いいん…ですか、自分、レイさんに迷惑かけると思います…けど…」
「上司ぶるつもりはないから、君が嫌なら、断っていい」
「嫌なわけ!…ないです。…その、宜しくお願いします。」
「うん。名前、教えて」
「…クラウド。クラウド・ストライフです。」
「クラウド、宜しく」


こうして、私はクラウドと面識を持つに至った。クラウドは照れて耳まで赤くなりがらも、私に笑いかけたのだった。



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