「レイ、何でこんなに料理が上手なのよー。もしかして料理人だったとか?」
「…料理人が、あんな場所で大怪我してると思う?」
「いやいや、もしかしたら壮絶なドラマがあったのかも…」
「ふふ、もう、ジェシーってば」


一口、また一口と目の前のご馳走を食べ進める。レイの作ってくれる料理はとても美味しい、まるでママの料理みたい。想いがこもってる、ってこういうことを言うのかな、なんて思った。
数日前、ミッドガルの郊外へ物資の調達に出掛けた時、倒れているレイを見付けた。ビッグスの力を借りてセブンスヘブンまで連れてくると、ティファは顔を真っ青にして、彼女は、レイは自分の友達だと言ったのだ。ティファが看病を始めると思いの外回復は早く、レイはすぐに此処でティファの手伝いをすることになった。彼女は記憶を失っていた為、自分の経歴を何一つ語ることはなかった。得体の知れない人物ではあったが、ティファがあれだけ懐いているのだし、私達にも友好的に接してくれる。私達もそんな彼女を無碍に出来なかった。
レイは美しかった。彼女のトレードマークとも言える銀の髪は腰あたりまで伸ばされ、揺れるたびにきらきらと光っている。長い前髪の隙間から覗く深い翡翠色の瞳はいつも伏せがちでどこか哀愁漂うが、笑えば本当に可愛らしくて、そのギャップが堪らない。肌の色は透き通るくらいに白く、華奢でしなやかな体躯だが程よい筋肉がつき締まっていて、長らく鍛えていたのだろう。頬杖をつき、カウンター越しに彼女を見つめる私。私は彼女の見目をひたすら羨ましく思っていた。


「私がその美貌の持ち主なら、女優になって大暴れしてやっただろうなぁ。」
「…女優?」
「そ、舞台に立ってさ、…私、目指してたんだよね、ここ来る前。…まぁ、どうでもいいか、そんな話。」
「……ジェシー」


レイは私を振り返り、微笑んだ。それは慈愛に満ちた笑みだった。


「ありがとう」
「…え?私、何かした?」
「ジェシーが私の命を繋いでくれた」
「そりゃ、人として当然。私じゃなくたってそうしたよ。」
「それでも、その役はジェシーだったわ」
「…うん、そだね。」
「ふふ、だから素直に感謝されて?」


彼女の命を拾ったのは私だ。あと少し見つけるのが遅れていたら、モンスターに襲われたりしていたら。彼女がこうして笑っていることも無かった、かもしれない。誰でも出来ることだろうけれど、レイがそう言うのなら、これはきっと私に与えられた特別な役目だったのだと思うことにした。
レイは私が食べ終わった後の食器をてきぱきと下げ、私に一杯のカクテルを差し出した。最近ティファから作り方を教わったようで、今までも何回か口にしたことはあるが、その味は絶品だった。今日は、赤と黄色のコントラストが絶妙なカクテルだ。グラスを手に取り一口、甘さの中に苦さが少しあって、爽やかですっきり飲みやすい。


「どう?」
「おいしーい!!流石、もうカクテルもモノにした?」
「まだまだ、修行中だよ」
「これ、レイのオリジナル?何ていう名前なの?」


店内の照明にグラスを透かし、中身をゆらゆらと揺らしていると次第に綺麗なオレンジ色になっていった。カクテルを通して彼女を見遣ると、彼女は僅かに首を傾けて。


「ジェシー」
「ん、何?」
「…ジェシー、だよ。名前」


カクテルの名前は、私の名前だと言う。心底驚いて瞼を瞬かせていると、レイは楽しそうに笑い声をあげた。いつの間にかグラスの中のカクテルは更に色を変えて、透き通る翡翠色。魔法みたいだね、と呟くと、ジェシーの為に魔法をかけておいたよ、と彼女は言った。
レイは人を惹き付ける。彼女の周囲には常に彼女を助けたいと思う人がいる。それは今まで、レイが自身の内外面の美しさをひけらかすことなく、他者を差別することなく、周囲の人を助けてきたからだろう。昔から彼女のことを知るティファは、そう語っていた。みんなに愛される、そんな彼女の努力ありきの、才能。今となっては私も例外なく、彼女に惹き付けられているひとり。


「私がレイを見付けたのって、きっと運命だったと思うんだよねー。」
「へぇ、ジェシーでも、そんなこと言うんだ」
「あ、ちょっと馬鹿にしたでしょ!?」
「してませーん」
「こらぁ!!レイー!!」


私を見付けてくれて、ありがとう。


Magical person - Ploject deltaray -



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