レイリア。その人物こそが、俺の世界の全てだと言っていい。


「レイ、」
「どうしたの、クラウド」
「…レイ。」
「ふふ、何よ、もう」


俺の視界の中で、俺だけに向けるその笑み。彼女の笑みは儚い。そして尊い。

再会を果たした彼女の記憶に、俺は存在していなかった。俺にはもう彼女しかいない、彼女だけが生きる意味で、ただ一つの希望だったというのに。その事実を突き付けられた時、俺は愕然とした。しかし、思いの外彼女はすぐに俺を受け入れたのだ。彼女の中に、断片的に残っていた俺との記憶が、俺という存在を認知させたようだった。
とある事件がきっかけで彼女が記憶を失ったように、俺の記憶も少し曖昧な部分があった。それでも、俺の中にある彼女を想う気持ち。これだけは、間違いない。そして誰にも譲れない。名前を呼べば呼び返されるだけで幸せなのに、俺の言葉に彼女は喜んで、笑う。俺の視界には彼女だけがいて、彼女の視界には俺だけがいる。そんな世界がこれからもずっと続いていけばいい。そう思った。


「…好きだ。」
「うん、知ってる」
「アンタは、どうなんだ?」
「…どうだと思う?」


小首を傾げ、彼女の表情は意地の悪い笑みに変わった。…以前からそうだ。彼女はこうして俺を弄ぶ。

男ばかりの現場で、彼女は華々しい活躍をしていたソルジャー1st。そんな彼女を周囲の人間が放っておく筈がなかった。彼女の周りにはいつも誰かがいて、俺は彼女に近付くことすら出来なくて。…俺の手が届くような存在じゃなくて。それもこれも、自分の実力が足りないせいだと思った。自信が持てなかったから、彼女に近付くことさえ憚られた。それでも、彼女は自ら俺の傍に来て、そんな俺を見捨てず支えてくれた。彼女の隣に立てる自分になりたい。もしそうなったら、今度は俺が彼女を支えるのだと、それだけを考えていた。あの頃は、想いを伝える事すら、躊躇したけれど。今の俺は彼女を支えられているだろうか。


「…夢を見ているみたいだ、と思う。」
「どうして?」
「アンタが、俺を見てくれている。」
「大袈裟、…ずっと見てたよ、私」


俺の頬に彼女の掌が添えられる。ずっと見ていた。その言葉が、嬉しかった。


「好き。…ほんとよ」
「レイ…」
「記憶の中の私、貴方の事いっぱい覚えてる。きっと、ずっと貴方のこと見ていた。でもね、もう記憶の中だけじゃないの」
「…今?」
「そう。貴方と出会ってからの私もね、貴方を恋しく思ってる。…貴方が私の事、好きだ好きだって言って大切に扱うから、勘違いしちゃってるのかもしれないけど」
「え、」
「冗談よ」


また、弄ばれている。

しかし、最早勘違いだってなんだっていい。彼女が俺を好きだと言ってくれるこの現実を、永遠のものに出来るのなら…彼女を俺の元に縛り付けておけるのなら、俺は幾らだって彼女を勘違いさせてやる。もう誰にも渡さない、彼女は、レイは俺のものだ。彼女の華奢な身体をそっと抱き締める。そうすると、安心したように彼女は俺に身を預けた。


「…狡いな、アンタはいつも。そうやって俺の心を掴んで離さない。俺ばかり、必死だ。」
「だって、クラウド可愛いんだもの」
「…うるさい。」
「そうやって、いつまでも私を追いかけて、求めて、夢中でいて。目移りしちゃダメ。ずっと、ずっと私だけ大切にしてくれなくちゃ」
「当然だ。」
「うん、信じてるよ」


言われなくとも。

彼女の髪を指で梳いて、次いで小さな顎を持ち上げる。彼女の瞳の中を覗くと、俺がいる。夢を見ているみたいだ、思わずもう一度呟いてしまった。すると、夢じゃないよと、彼女の口からそう返事が。ああ、夢にまで見た光景、でも夢じゃない。視界が、僅かに滲んだ。涙だ。思わず瞼を閉じ、彼女と唇を重ねる。細い腕が俺の背に回され、控えめに俺を抱き締めている。幾度か啄んだ後、薄く瞼を開くと丁度視線が絡み、また彼女は笑ったのだった。


「レイ、欲しい。」
「え、?」
「…触れたい、アンタに、もっと。」
「ちょっと。…」
「ダメか?」
「……う」
「…顔が真っ赤だな。」
「クラウド、意地悪」
「どっちがだ。」


一番大切な言葉は、記憶を取り戻した彼女へ。


Happy Birthday 2020.8.11 - Ploject deltaray -



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