目を覚ますと、そこは宝条研究室内にある一室、幼い頃エアリスが母と暮らしたという部屋だった。私とクラウドは同時に意識を失い倒れ、仲間達によって一旦この場所に運ばれたようだ。隣では、まだクラウドが眠っていた。周囲を見渡せば、壁に大きく描かれた色彩豊かな絵が目に入る。沢山の花、動物や人間。幼いエアリスが描いたもののようだ。エアリスは母と共に神羅に捕らわれ、純粋な古代種である母は毎日のように実験台とされていたという。母だけが連れていかれて、泣いてた。そう言ってエアリスは笑った。
クラウドも目を覚まし、私達は現状を把握する為にエアリスの話に耳を傾けた。大方の話はエルミナから聞いていたものの、全てのことは彼女の口から直接聞きたい、そう思った。


「私、古代種の生き残り。あ、でも古代種っていうのは、神羅が付けた名前。本当は、セトラっていうの。」


星の民、セトラの末裔。それが、エアリスの正体。神羅に約束の地をもたらすべく協力させられていた、その理由。だがエアリスは、肝心の約束の地が何処にあるかなんて、さっぱりわかんない、と言う。バレットは声を上げた、もし約束の地が本当にあったとしても、それはエアリスの約束の地だ。神羅によって好き勝手に踏み荒らしていいものではないのだ、と。その言葉に、自然と全員が頷いた。
すると再び、私達の目の前に黒い亡霊が湧いて出た。エアリスを取り囲み、私達を牽制しているように見える。慌てて切り払おうと剣を構えたところを、足元にいたレッドに制された。そして言うのだ、この亡霊達の名前は、フィーラー。運命の番人を務めるもの。運命を変えようとしている者の前に現れて、正しい運命へと修正することが目的なのだと。


「運命の道筋が、既に決まっているということ?」
「ああ、どうやら…星は力尽きてしまうらしい。」
「…お前、そんなこと何で知ってる?」
「…エアリスが私に触れた時、その知識も其処にあった。」


原理は分からない。けれど、エアリスがレッドに知識を与えたことで、私達の知り得ない星の運命を知ったと彼は語る。私達の前に立ちはだかるフィーラーは、運命を変えようとしている者の行動を修正するという意志を持っているらしい。時として私達を遮ることもあれば、見向きもしなかったりしたのはそういうこと、だったのかもしれない。正しい運命というのは、レッドが言うに星が力尽きてしまう未来だ。どういうわけか、そんな未来の基盤が既に存在している。フィーラーは私達の行動を修正し、そんな運命へと向かわせている。それは誰が決めた運命なのか。抗うことは出来ないのか。抗う、べきなのか。


「私達の敵は、神羅じゃない…」


動揺している私達に、エアリスはそう言い放った。本当の敵は他に居る、皆を助けたい、星を。バレット達アバランチは、星を守る為に神羅と戦ってきた。エアリスの言うことが本当ならば、…敵は一体誰なのだろう。エアリスの深い緑の瞳が揺れている。思えば彼女はこれまでも、まるで未来を知るかのような発言をしていたと今になって気付く。…彼女の中には、何かが、ある。それは漠然とした未来のヴィジョン。しかしこの発言の曖昧さから、きっと彼女自身も、自分の中にあるものの正体を、…そしてそれがどういう結末を呼ぶのかまでは、よく把握していないのかもしれない、と感じた。


「エアリス、貴方には何が見えているの?」
「わからない…今は、動くほど道がわからなくなる、フィーラーが私に触れる度、私の欠片が落ちていく…!黄色い花が、道標だった、…」


エアリスは自分の身体を抱き締め、まるで泣いているかのような声で語った。言葉の意味は、勿論理解できない。…彼女がたった一人身の内に何を抱えているのか、それがどのくらいの重さなのか、私達には分からない、けれど。ティファに目配せをし、フィーラーに取り囲まれたエアリスの腕を掴み、此方へと強く引き寄せた。驚いたエアリスが私達の顔を交互に見て、…そのうちにフィーラーは霧散していった。


「大丈夫よ、エアリス」
「レイ、」
「一緒に考えよ?」
「ティファ…」


傍に居るから。そう伝えると彼女は瞼を僅かに伏せ、ありがとう、と小さく零した。



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