会議後、宝条の後を追い65階、宝条研究室・サブフロア…その研究施設内に潜入する。きっと、エアリスはもう近くに居る。私達の存在に気付いていない宝条、バレットは素早く彼の背後に近寄りその背へと右腕を突き付ける。緩慢な動作で首だけ此方に向けた宝条はさして驚くような仕草も見せず、私達がアバランチであることを察したのかプレジデントは上だ、なんて言う。動じないその様子にバレットは一層銃を強く突き付け、仲間を開放してもらおうかと捲し立てた。


「エアリスはどこだ!!」
「エアリス?…彼女の知り合いか。」


開放するもなにも、彼女は自らの意志で此処に来たのではないか。彼の下衆な笑みが、嫌悪感を誘う。エアリス自らの意志だと言われればそうだ、しかしその意志は、私を、マリンを守る為のもの。…きつく拳を握る。
宝条の合図を皮切りに、突如としてフロアに湧いたのは宝条の実験体であろうモンスター達。部屋の中央に安置されていた巨大なモンスターまでもが私達の前に立ちはだかった。君達が死んだら、彼女はどんな顔をするかなと思ってね。逃げる宝条はそう言い残し、上のフロアへ消えていった。…容赦のない仕打ちだ。ならば、私達も遠慮をする必要もないだろう。鼻をつくガスの臭い、触手をうねらせ私達に近付いてくるモンスター。武器を構える私達。早く、彼女の元へ───

更に上階へと向かった私達は、そこで漸くエアリスを見付けることが出来た。大きなカプセル内に閉じ込められている。私の姿を見付けた彼女は眉を下げ、悲しい顔をした。彼女がこんな思いをしてまで私を助けてくれたのに、自ら神羅の手の内に戻るなんて本当に、馬鹿げていることだ。それでも私は、エアリスと離れてからずっと、彼女を取り戻さなくてはいけないと考えていた。今の私にとっては会って間もない彼女、なのにこんなに心配で、不安で。私を突き動かすのはいつだって心で感じること、きっとそれは過去の記憶に起因していること。これ以外、私には確かなものなど何もないのだから。私達と彼女を阻む分厚いガラスに駆け寄る。


「エアリス…!!」
「…レイ、どうして、こんなところまで…!」
「迎えに来た、私、…まだ何も聞いてない。離れ離れなんて嫌」
「…やだな。ごめん、嬉しいって、思っちゃってる。」
「ごめん、じゃないでしょ」
「…へへ。ありがとう、レイ。」


ガラス越しに彼女と掌を重ねる。そういうとこ、変わってない。彼女の言葉に胸が詰まる。…まただ、この温かな感覚。ティファや、クラウドと同じ。私が、彼女を大切に思っていた証。守らなくては、今度こそ。この様子を上から眺めていた宝条へ、彼女を返してもらおう、とクラウドが強く言った。宝条は興味深そうにクラウドを見つめ、その瞳、ソルジャーか?と問いかけた。…私は彼らに背を向けたままではあったが、存在を悟られまいと瞳を隠す為帽子の鍔を下げた。クラウドは強く、言葉を返す。


「元、ソルジャーだ。」
「ソルジャー…?いや…違う!思い出したぞ、お前は───」
「わっ!!」


思わず声を上げたのは、私。私達の頭上を、突然として湧いてきた大量の黒い亡霊が通過していったのだ。それはいつか見た、あの亡霊だった。今度は私達のことに見向きもせず、一直線に宝条へと向かっていく。何かを言いかけていた宝条はそのまま亡霊の波に押し流されていき、何処かに姿を消してしまった。…その隙を逃さず、私達は無事エアリスを救出することが出来たのだった。

さて、次はここからの脱出経路を確保しなくてはいけない。道なりに研究所内を進んでいくと、大きな中央エレベーターが見える。そして、閉じるドアに身を滑り込ませる宝条の姿。私達の目線の先には、今まさに宝条に飛び掛らんとする赤い獣。寸でのところで宝条を捕らえることが出来なかったその獣は私達を振り返り、低く唸った。臨戦態勢を取る私達、それを制したエアリスは、この子は大丈夫、と果敢にもその獣の頭を撫でてみせた。───レッド]V。人語を話す獣、宝条の実験体。これが彼との出会いであった。


「母さん、会いに来たよ。」


突然、声が聞こえてきた。辺りを見回すが、声の主は見当たらない。


「母さん、一緒にこの星を取り戻そうよ。」


だが、姿見えずとも…もう分かる。この声は、彼のものだ。


「母さん、また奴らが来たよ。」


脳裏に浮かぶ映像があった。巨大なガラスポット内部に拘束されている、美しい女性。…いや、違う、あれは異形のもの、忌むべきものだと、本能的に思った。その眼前に立ち、それを見つめるその後姿、セフィロス…彼だ。私はその光景を、床に座り込み彼の背後から見ていた。母さん。彼はそれに恍惚とした表情で語りかけている。…私は知っている、セフィロスが母さんと呼ぶそれは、人間では、ない。ガラスポットに掲げられたプレートに記された名前は、JENOVA───ジェノバ。そうだ、あれは、災厄だ。やがて、ゆっくりと時間をかけ彼が私を振り返る。視線が絡み、刺すような重圧に貫かれ、身体が動かない。彼の唇が薄く開かれ、そこから放たれた一言は、


「裏切り者…」




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