神羅ビルへの侵入は裏の搬入口から行うことにした。物資を運ぶ神羅のトラックに飛び乗り、検問を突破する作戦。…戦闘を避け静かに潜入するつもりだったが、ちょっとした手違いで結局大暴れしてしまい…。ソルジャーが大量に配備された搬入口を突破し、辿り着いた1階メインエントランスには人ひとりとしておらず…兵の増援もない。私達侵入者の存在は、感付かれていないのだろうか。それはそれで不気味だった。神羅ビルは、スラムとは比べ物にならないほどどこもかしこも綺麗な建物だ。これこそが、星の犠牲の上繁栄を得る私達人間の罪の象徴ともいえる創造物…。周囲へ一回り、二回りと視線を巡らせると、やはり初めて来た場所とは思えない、既視感。


「クラウド、此処見覚えがある…かも」
「…何か思い出したか?」
「うん、…あのカフェ、とか」
「ああ…アンタはいつもカプチーノだったか。」
「あのよぉ、こんな所でイチャつくなよな!?エアリスが居るのは何処だよ!!」
「宝条の研究室だろう。…ずっと上だ」
「でも、上に行くには専用のカードキーが必要だった筈よね、クラウド」
「ああ」


すらりと出てきた言葉、やはり、記憶を失えど知識は消えていない。…いや、此処に来て思い出しているのか。受付カウンターにまるで用意されたかのように置いてあったカードキーを手に、先ずは一般カードキーでも侵入可能な59階までを非常階段で登りきる。正面突破となるエレベーターは、これ以上の無駄な戦闘を避けるべく使用しないに限ると判断し………目的階辿り着く頃には全員行動不能になった。

59階、スカイフロア。全面ガラス張りのそこは美しいミッドガルの夜景が一望できる。…全ては星の命を燃やし、輝く景色。ガラスの向こう側を見つめながら、以前の私は如何して神羅に入社しソルジャーになったんだろうか、と疑問に思っていた。今はエアリスを取り戻す為に、バレット達と共に神羅と闘っている。けれど、かつて神羅に居た筈の私には、貫く意志は、守りたいものは、…此処に存在していなかったのだろうか。だから、私は神羅を離れたのだろうか。…分からない。隣のクラウドは私の帽子をぎゅっと押さえ、より一層深く被せ直した。

60階からは一般人の会社見学ツアーが行えるフロアが続く。神羅という会社の歴史、手掛ける事業、そしてトップであるプレジデント神羅の軌跡、魔晄都市ミッドガルのあらまし等々を見せられながら、上階へと向かった。


「神羅は皆様を約束の地へ…か。」
「…その為に、エアリスを捕らえたのね」
「反吐が出るぜ!!」


61階、ヴィジュアルフロア。コスモスシアター、ドーム型のシアター内で語られたこの星の成り立ち、それからまざまざと見せられた神羅の欲望、理想像。神羅の目指すネオ・ミッドガル。神羅は皆様を約束の地へ、そう語るナレーションに思わず拳を握りしめた。奴らはその為に、古代種を、エアリスを実験材料に。…私が、あの場所に居なければ、彼女は此処に来る必要もなかったというのに。そう同じことを何度も、何度も胸中で繰り返してしまう。自分の存在に嫌気が差した。…自分がやらなくちゃ。その為に連れてきてもらったのだから。

理想郷の映像が一通り流れ終わると、最後に付け加えられていたのは、巨大な隕石がミッドガルに迫り、人々が阿鼻叫喚し逃げ惑う場面。そしてその中心に、私達を、私を見つめている人物がいる。その顔には、見覚えがあった。瞬く間に隣に居たティファとバレットが、彼の凶刃に倒れ───


「…セフィロス…」
「セ…っう、っ」
「!?レイ、大丈夫か。」
「っ…大丈夫、少し、目眩が…」


───セフィロス。クラウドの口から滑り落ちた名前。その名を聞いた瞬間に、頭が割れるように痛んだ。吐き気。思わず床に膝を付く。体の震えが止まらない。


「お前は、俺のものだ。」


あの日、夢の中、私を愛していると言った、彼は…セフィロスだ。神羅カンパニーの英雄・セフィロス、…彼こそが、その人であった。

しかし、今しがた私に向けられた彼の眼差しは、あの時のように優しいものではなかった。



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