「…エアリス、」
「大丈夫だよ、レイ。マリンのこと、お願いね。」
「待って、貴方…」
「出来る限りの事、やった。後悔したくないから…」
「何を、」
「帰ってくるよ!」


クラウドも、ティファも、そして自分も、みんな。エアリスは意味深なことを言い残す。…それはまるで、この事態の結末を知っているみたいな口振りじゃないかと、思ってしまった。
私とマリンは伍番街スラム、エアリスの家へと避難することになった。エアリスは私達を家へと案内し母であるエルミナに託した後、ツォンとの取引通り再びヘリへと乗り込み、神羅ビルに向かった。引き止める暇も無く、切ない笑顔を浮かべ私とマリンに向けて、ヘリの中から小さく手を振る彼女の姿。私は飛び立つヘリを、見えなくなるまで見送った。


「見て!お花、こんなにいっぱい!レイのおかげ、だね?」
「もう、居なくならないで…レイ。」
「ずっと傍に居てくれて、ありがとう。レイが、私の希望だったんだ…」
「レイと会えて、よかった。」


───頭痛。脳裏に過ぎる声はエアリスのもの。私に笑いかけ、同じように小さく手を振っている光景。これは彼女との、記憶…。


「その目、あんたもソルジャーかい。」
「…元、ソルジャーよ」


エルミナは悔しそうに眉間に皺を寄せ、私を見遣った。聞けば、彼女は日頃から神羅にとある研究の自発的な協力を求められていたという。彼女はそれをずっと断り続けていた。それなのに、神羅に捕らわれる訳にはいかない私、そしてマリンを助け出す為に…自ら神羅へ向かう道を選んだ。逃げ遅れた私達があの場所から避難するには、この選択肢しかなかったから…私達の安全を確保する為に、神羅に協力すると言ったのだ。エルミナは、そのエアリスの気持ちを無碍に出来なかったのか、あの子が帰るまでは此処に居たらいいと言ってくれた。

…クラウド達は、七番街プレートを落とすという神羅の画策を、後一歩のところで止めることが出来なかった。というのは、エアリスの家へと辿り着いてからの凄まじい地響き、…そしてテレビのニュースで惨状を知った。七番街のプレートは落下し、七番街はプレート、スラム共に崩壊。予想通り、ニュースの報道はこのプレート落下はアバランチの仕業だと謳っている。…支柱で闘っていた私の仲間達は、無事なんだろうか。エアリスは去り際に、みんな帰ってくる、と言い残した。その言葉は本当なのか…。必死に笑顔を見せ、マリンを寝かしつけた。


「マリン!!マリーーン!!!」
「っバレット、おかえりなさい…」
「レイ!!お前も無事だったか、マリンは!?」
「上に。寝ているわ」
「レイ、マリンのことありがとう。」
「ううん、ティファも…無事でよかった。おかえり」
「レイ…」
「…クラウド、おかえり」


大声を出して家に飛び込んできたバレット、そしてティファ、クラウドが続く。支柱の上、神羅と最前線で戦ってくれた三人が帰ってきた。ジェシー、ウェッジ、ビッグスはプレートの崩壊に巻き込まれてしまったらしい。…ひとまず今は三人が帰ってきてくれたことを喜び労うべきだ。二階の部屋へとマリンの顔を見に行ったバレット、ティファ。二人が居なくなると、クラウドはエルミナの目も気にせず私の腕を引き、きつく抱き締めた。突然の事に驚き彼の顔を見れば、その瞳は、怯えに揺れている。


「…俺はアンタを失わない、…絶対に、」
「クラウド…?」
「守ってみせる、今度こそ、」
「クラウド、」


その縋るような声色に、思わず彼の頬を両手で包み、その冷え切った身体に熱を分ける。目の前の彼は一体何を恐れているのだろう。失ってしまった、守れなかったことへの恐怖。防げなかった今回の事態を悔いているというのもあるだろう、けれど彼の恐れはそれだけではない気がした。しっかりして。彼の目を見て伝えれば、彼は漸く私に焦点を合わせ安堵の息を吐いた。

エアリスは、この世界にたった一人の古代種、という人種、その生き残りであった。実母と共に何処かの施設、恐らく神羅から逃げ出してきたというエアリス。亡くなってしまった実母の代わりに彼女を保護したエルミナは、今まで二人で家族同然、幸せに過ごしてきた。ある日、エアリスの居場所を掴んだ神羅はエルミナの家へ乗り込んで、彼女に約束の地を見付けるようにと言った。古代種は、星命学における至上の幸福が約束された土地、約束の地へ、私達人類を導く存在。神羅はそう定義している…正直そう言われても、ピンとこないものだ。神羅は約束の地という比喩を魔晄の豊富な土地だと踏み、その土地を探す為に、日頃からエアリスの自発的な協力を求めていた。エアリスはそれを拒み続けていたのだ。なのに、私とマリンを救う為に、自ら神羅へと赴いた。


「あんた、エアリスの友達なんだろう。」
「…エアリスが、そう言ってた?」
「ああ、…レイ。名前を聞いた事があるよ、あの子から。」


エアリスを助けに行きたい。そう言ったクラウドをエルミナは制した。事を荒立てないでほしい、すぐに帰ってくる筈だからと。

バレットの提案により、クラウド達は一度七番街スラムに戻り、状況を確認することになった。仲間達の安否も、セブンスヘブンも、どうなってしまったのかこの目で見ておきたいからと。不安定なクラウドを心配しつつも出掛けていく彼らを見送り、落ち着いたところでエルミナへ白湯を用意し、リビングで二人話していた。エルミナも知る通り、私はやはりエアリスと友人だったらしい。神羅を通じて、出会ったのだろうか。エアリスの去り際に私の脳裏を過ぎった映像は、以前の私と彼女との間に関係があることを示していた、筈だ。しかし今の私には、彼女との思い出は何もない。それでも、彼女の事を覚えていない私を、彼女は守ってくれた。神羅の身勝手な実験、会社繁栄の助力。そんなものの為に囚われの身となった。エルミナは、あんたのせいじゃないよ、と俯く私の頬を撫でた。…途端に涙が出そうになる。


「エルミナ、私も…出来る限りの事をしたい。後悔したくないの」
「…大丈夫さ。どうせ客人扱いなんだ、元々助けるも何もないんだよ。それにあんたも、神羅に追われているんだろう?なら大人しく此処で待っていた方がいい。」
「……ありがとう。でも、エアリスが本当に無事かどうか、私達にはわからない。私、彼女を失いたくない、と思ってる」
「そんなの…私も同じさ。」
「分かっているんでしょ、貴方も…本当は、どうしたらいいかなんて」
「…ああ、ああ。そうだよ。本当は…」


エアリスを、行かせたくなんてなかった。エルミナは絞り出すような声で、そう呟いた。

夜も更けた頃、クラウド達が帰ってきた。バレットがウェッジを担いでいたので、そのまま二階の部屋へと連れて行き、ウェッジをベッドへ寝かせる。どうやら大きな怪我もしていないようだ、…本当に無事で良かった。ウェッジの安らかな寝顔を見ていると、後ろからクラウドに抱き締められる。…ねぇ、ジェシーは、ビッグスは。そう問い掛けても、彼は黙ったまま、抱き締める腕の力が強くなっただけ。その沈黙が何を意味するかなんて、考えなくても、分かる。私が今此処に居るのは、彼女が、ジェシーが私を見付けてくれたからなのに、…私は彼女を見付けられない。ぽつり、私の目から涙が落ちた。



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