シラバスからショートメールで、BBSのメンバー募集に早速レスがついたらしい、と報告があった。ただし、メンバーを確かめに行くのはハセヲだけで来いという指定付き。実に怪しい。ハセヲにいちゃん、きをつけてあげて…望にそんなことを聞いていたばかりなので、これはもう危険な匂いしかしないと思った…のだが、アトリという頼みの綱が切れてしまったハセヲは必死で、その指定通り一人でエリアに乗り込んで行ってしまった。幸いなことに、BBSというのは誰でも閲覧できるため、エリアワードは分かっている。


「…念の為、念の為よ」


そうして、私もそのエリアへと足を踏み込んだ。

私の敵にはなりえないモンスターを蹴散らしつつ先へ進むと、どうやらビンゴだったようで…視界には、いつか見た顔が写っていた。ボルドー。私達が手にかけたPKだ。先日もエリアでハセヲが襲われたと言っていた、…執拗に付け回して、レベルの下がったハセヲに報復しようと狙っているんだろうか、こいつらは。ボルドー一派の背後でひとつ咳払いすると、振り返った彼女は酷く歪んだ表情で舌打ちをした。私は笑顔で手を振ってみせる。ハセヲがこの場所に居る筈のない私の姿を見、驚いたように私の名を呼んだ。ハセヲを倒したければ、先ずは私を倒して頂戴ね、と相手を煽り、刀剣を引っ張り出す私。ボルドーは、臆すことなく刀剣を出そうとした ── その時、またしても月の樹の面々が乱入してきたのだ。


「武力で解決、とは美しくない。引きたまえ、メイカくん」
「…アンタ、エリアでもモノ言えるんじゃない。少しだけ見直したわ」


やって来た早々私に説教じみたお小言を呟く榊。その後ろにはアトリと、もう一人の男…。毎度のことながら、何故か勝ち誇ったような表情をする榊に苛立ちが隠しきれず、刀剣を突き付ける…直後、鈍い金属音が響き、私の矛先は横にずらされた。隣の男、…松が銃剣を私に向け、私の刀剣を払ったのだ。


「榊さんに武器を突きつけるたぁいい度胸だ…俺が相手になるぜ?」
「結構よ…こんな歯応えのなさそうな相手、私の時間が勿体無い」
「へぇ、言うじゃねーか。威勢のいい女は好きだ」
「…褒められてるの?全然嬉しくないけど」


興醒め。確実なのは、月の樹をPKしたところで何も情報は落とさない、どうせまた絡んでくることに変わりは無い、ということだ。こんな連中とは関わらない事が一番。溜息を一つ、振り返って武器をしまう。ボルドー一派はといえば、榊にケストレルという名前を出されただけで尻込みし、ただただ黙ってしまった。ケストレル、今や極悪非道のPK集団が集うと噂されている巨大ギルドだ。彼らもまた、その一員。こんな奴らにもギルドへの義理はあるんだろう。
この場を収めたことに満足したのか榊は去っていき、ボルドー一派も榊に促され撤退していった。どいつもこいつもギルドギルド、何が楽しくてそんなに縛られているんだろう。…と私が言うのは、僻みかもしれない。兎にも角にも、色々な意味で何事もなく事は過ぎ去ったのだった。何故此処に月の樹が現れたかといえば、アトリが事前情報を望から聞いたからのようだった。望は私を呼びに行く途中にアトリに会い、事の顛末を伝えたらしい。


「俺は松。お前が噂のメイカだな」
「どうも、赤鉄の鬼人クン」
「…知ってるのか。」
「まぁ、私もアンタ程度の人間にすら名の知れてるPKKのようですから」
「言うじゃねぇの。彼岸の腕、その二つ名は伊達じゃねぇってか」


視界の端でハセヲとアトリが話している。話しかけてきたこの松という男、現在は月の樹の隊長格だが、以前はPKとして活動していた人物だ。榊により更生させられ、榊に尽くす、忠犬。そういう噂を聞いた。彼岸の腕(ひがんのかいな)。誰が呼び始めたのか、いつの間にか付いていた私のPKKの通り名、彼は知っているようだ。流石はこの世界の風紀委員会ギルド、最近PK討伐数が祟ってカオティックPK候補とまで言われるようになってしまった私のことなど、既に把握済みだったか。
松は背を向けている私に向かって武器は構えたまま、笑顔で歩を進めてくる。その気配に思わず振り返ってしまった。


「俺に面と向かってケンカ売ってきた女なんてお前ぐらいだぜ?…ちょっと相手しろよ、」
「嫌って言ったでしょ、面倒臭い。同じ事を何度も言わせないで」
「いいじゃねぇか、俺がお前のことを気に入っちまったんだ」


思わず顔が引きつる。斬りかかって来る松を咄嗟に避け、双剣を取り出すと彼は至極嬉しそうに笑みを深めた。流石に騒ぎが気になったかハセヲが乱入してきたことで、事なきを得たといったところ。私がこんなことをしている間に、アトリがアリーナメンバーになることや、カナードに加入することが決まっていたようだ。



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