そろそろ、セカンドPC作ろうかしら。…呪紋士の。

ハセヲは結局、アトリを誘うことにしたようで、たまたま彼女から冒険のお誘いが来たから説得してくる、と言って急ぎ足でカオスゲートから消えていった。私はといえば、自分の役立たず具合にほとほと嫌気が差していた。一生懸命上げたレベルも、ただの足枷にしかなっていない気すらした。私がレベルが低ければ、ハセヲを手伝えたのに。パーティーに入るのは、きっと私だったのに。…なんて自己嫌悪ばかり、全て今言っても仕方のないことだけれど。お前は今、絶望しているようだな。そう言った彼の声が、脳の裏に貼り付いて消えない。


「…メイカねえちゃん、」
「あれ、…望?」


ふと気付けば、脚元に私を見上げる可愛いお客さんがいた。面識といえば、ハセヲがショップをやっていた際にお客さんとして来た望と挨拶をしていただけなのだが。ハセヲを慕う望は、ハセヲと仲の良い私を姉ちゃんと呼ぶことにしたらしい。特に異議はないのでそのままにしておく。


「きょうは、ひとりなの?」
「うん、ハセヲはエリアへ行ったわ。何かハセヲに用があった?伝えておこうか?」
「あ、ううん…メイカねえちゃんとおはなししたかっただけなの」


私を見かけたから話かけてみただけだと、そう言って俯く望のあまりのいじらしさに胸を打たれた私。そのまま望の手を取り、もし時間があれば一緒にエリアでも行こうか、と誘う。望のレベルと職業に合わせた報酬が貰えるエリアを選び、共に冒険をすることにした。このレベル帯のエリアに出現する敵では、私が攻撃すると一瞬で消し飛んでしまうが、望のレベル上げにはいいだろうとちまちまと頑張ることにする。S判定、S判定…。


「メイカねえちゃん、すっごくつよいんだね!」
「ありがと、でも望も同じレベルになれば、私なんかすぐ負けちゃうわ」


獣神像の宝箱を譲り、望が開封するとなかなかいい武器が手に入ったようで、大層喜んで可愛くお礼を言ってくれた。疲れなど最初から無かった。じゃあタウンへ戻ろうかと提案すると、今度は望が私の手を取り、もう少し此処にいたいと強請る。二つ返事で了承。傍の草原に座って二人で湖を眺めていた。あのね、と気まずそうに話を切り出す望の顔を見ると、しどろもどろに言葉を続けていった。


「朔がね…なにか、しようとしてるの」
「…何か?」
「ハセヲにいちゃん、…きをつけてあげて、おねがい」
「!…」


突然の望の接触、何かあるだろうとは思っていたけれど…望は、朔が画策していることに気付き私へSOSを出したのだ。彼女がハセヲに仕掛けてくるとしたら、十中八九エンデュランスとの一件だろう、というのは誰でも察しがつくんじゃないだろうか。溜息をつき眉間を押さえていると望はしゅんとした顔をしたので、態々ありがとう、と頭を撫でておいた。


「…!メイカ」
「あ、おかえりハセヲ」
「いやお前こそ…どこ行ってた?」
「ちょっとエリアにね。」
「へぇ、誰と」
「嫉妬?」
「ち、違ぇよ!!」


望と別れてカナードの@homeへ来ると、既にハセヲが帰ってきていた。勧誘の結果を聞けば、失敗したという。どうやら口論…いや、この二人では口論にはならないだろう、単純にアトリの発言でハセヲが機嫌を損ねたようだ。私達には他のメンバーにあてがない。これではアリーナに参加することすら出来ない、…仕方なくBBSにメンバー募集の旨を書き込むことにするようだ。
シラバスはBBSに書き込みに、ガスパーはショップを開くと去っていったので、@homeには私とハセヲが残った。気を楽にしたのか座り込む彼の隣に座る。するとハセヲは、先程アトリに言われたことをポツポツと話し出した。


「“景色が綺麗”とか“鳥に触りたい”とか“きんうが可哀想”…とかな」
「きんう…」
「…“ちょっと立ち止まって”…だと」


── ちょっと立ち止まって

志乃と同じ姿で、彼女はハセヲにそう言ったという。…これだけ酷なことが他にあるだろうか。一刻も早く志乃を助けたい私達に、その姿でそう言われては、戸惑いもするだろう。が、彼女は悪くない。この世界にいるプレイヤーは、各々この世界の楽しみ方を自分の中に持っている。今の私達には楽しむという感情、それがない。彼女との意見の相違。という、それだけの話だ。隣に座っているハセヲが、静かに私の肩に頭を乗せた。その頭に、私は頬を寄せた。


「…ムカついてたけど、メイカと話してたらちょっと落ち着いた。」
「それはよかった。もう少し、こうしていようか」
「…ん。」


なぁ、メイカ。お前は俺のこと、分かってくれるよな。彼は縋るような声で私に言った。勿論だと返した。



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