CC社からのメールでタウン、ルミナ・クロスのメンテ終了のお知らせが届いていた。普段から積極的にアリーナに参加している訳でもない為別段気にしてはいなかったが、少し気が向いたので、勉強の合間アリーナバトル観戦でもするかと早速ルミナ・クロスへ向かった。
今日はアリーナ・紅魔宮のタイトルマッチ…トーナメントで勝ち上がったチームと宮皇・エンデュランスの試合が行われるらしい。エンデュランスといえば、何かと話題になる“電波系美青年”…だっただろうか。試合はいつも相手を瞬殺で、どこかミステリアスな空気が人気に拍車をかけているとかなんとか。…というのは全て掲示板の受け売りだ。


「って、やっぱりメイカか」
「あれ、ハセヲ。それにシラバスとガスパーも」
「メイカも試合見に来たの?」
「何となく、気分でね」


闘技場に試合を見に来たハセヲ達と出くわし、アリーナにやってくる人の多さを目の当たりにした。アリーナバトル、というのは此処ルミナ・クロスに設置された闘技場でのみ開催されている対人戦の公式大会。この世界ではこの大会でのみ、プレイヤー間が剣を交えることが認可されている。…私達の日頃の行いは、公式からすれば目の上のたんこぶ、といったところだろうか…。シーズン毎にトーナメント形式で行われている試合の、本日が一旦の最終戦。メンテ解除からの宮皇防衛戦なら、まぁ混むのも当然か。折角なので、ハセヲ達と一緒に試合を観戦することにした。

試合は3対1。数では宮皇の圧倒的不利。シラバスが言うには、この状況でも彼、エンデュランスは勝ってしまうのだという。一方的な相手の攻撃をうまく受け流すだけのエンデュランスに、そんな強さは見えないと思っていた、その矢先。エンデュランスが何かを呟き、ハセヲは席を立ち上がった。一瞬の光が差し、客席がどよめく。私は妙に冷静に、席で足を組んだままそれを眺めていたのだけれど。


「なんだ…あれ…」


確信した。ハセヲには何かが見えていると。

試合はというと、その一瞬で終わっていた。エンデュランスの勝利だ。何があったのかは分からなかったけど、あれはスキルや何かの類では決してない。宮皇の座はエンデュランスが維持、周囲の沸く観客の中、私とハセヲは暫く口を噤んだまま。その後、漸く口を開いたハセヲは、あんなの試合じゃねぇよ、と呟いてアリーナを去っていってしまった。…シラバスとガスパーをつれて、私達も闘技場を出ることにした。

入口で立ち尽くすハセヲに声をかけると、ハセヲはある路地をじっと見つめていた。そして、その名を叫び突然走り出した。

── オーヴァン。


「…メイカか。久しぶりだな」


走り出したハセヲを直ぐに追いかけることが出来なかった。少ししてから追いかけた私の目の前にはハセヲと、オーヴァン。彼の姿を視界に捉えたのは実に、半年以上ぶりだった。突然の邂逅、── この期に及んで彼に何を言えばいいのか分からず、戸惑っている私をゆるりと見遣り、彼は言った。お前は今、絶望しているようだな。それでいい。それが、正しい。…と。何故彼は、何も出来ないと理解してしまった私が絶望しているということを、知っているのだろう。背筋が凍る、そんな感覚に襲われる。
オーヴァンはそれだけ言うと、そのまま姿を消してしまった。彼の名を叫んだハセヲの声は、届かなかったのだろうか…。オーヴァンの、まるで私の様子をずっと傍で見ていたかのような…その口振りに少しだけ怖くなって、隣のハセヲの腕を掴む。ハセヲがメイカ、と優しく名前を呼んでくれた。


「あんたら、こんなとこで何しとるん?」


── 突如として、キリキリと耳に残る声、私たちの足元で騒いでいるのは以前、ハセヲのショップに来ていた望という少年と同じPCに見える。ハセヲ曰くこれは双子の姉、ということらしいが。その子の声に導かれるように振り返ると、そこにはエンデュランスの姿があった。ハセヲは彼の前に立ちはだかると、さっきの試合は何なんだ、と突っ掛っていった。話の内容からすると、やはり彼はハセヲ達と同じ特別なPC ── そして、先程の試合でまさにその力を行使し、相手を制したということのようだ。三爪痕と渡り会えるという彼らの特別な“力”、仕様を逸脱とまで言うようなレベルの膨大な力を、一般プレイヤーに使えば、三爪痕と同じように人を意識不明の状態へしてしまうのではないだろうか?それは危険なことなのではないのだろうか?…口には出さなかったけれど、二人の論点はそこではなかったので、後でクーンにでも聞いておこうと思った。


「キミには力がない」


口論の末、漸くエンデュランスが放ったその言葉に、ハセヲは完全にぶち切れていた。やってやるよと、紅魔宮を勝ち抜いてやるよと掴みかかる勢いでケンカを売っている。エンデュランスはさして気にする様子も無く、薄く笑みを浮かべそのまま去っていってしまった。場に残された激昂するハセヲをよしよしと諌めていると、私達の様子を影から見ていたらしいシラバスとガスパーが慌てて私達の元へやって来る。


「今のはまずかったよ、ハセヲ〜!」
「…ハセヲ、紅魔宮出るってこと?」
「あいつぶっ倒してやる」
「そんなこと言ったって、メンバー…」


お前らでいいじゃんwと指を差された私達。ガスパーはとんでもないと首を振り、今にも泣きそうだった。どうやら極度のあがり症のようだ。私はといえば、レベルも今や140近く、紅魔宮レベル制限50に完全アウト。私では出場出来ません、そう言うとハセヲはものすごく残念がっていた。それはそうだ、このトーナメントに私が出たら皆一瞬で消し飛んでしまう。シラバスはハセヲとトーナメントに出場することを了承し、残りの一人、…呪紋士あたりを探すことにしたらしい。ハセヲに、心当たりある?と問いかけるシラバスの言葉に苦い表情をするハセヲ。…今思い出しているのは、あの子でなければいいのにと、仄かに嫉妬してしまった。



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