「オイオイ、マジかよ…メイカ、お前もいるのか?」
「え、…松?、……え?嘘でしょ」
「まさか、お前も出るのかよ…松」
「ワシもいるぜ、小僧」
「大火!?あんたまで…!?」


ルミナ・クロス、アリーナカウンター前。トーナメントに参加する手続きをハセヲと共に終えた直後、そこに松、大火が現れた。…なんと、このトーナメントに彼らも参加するというのだ。何故松が、…というのも、どうやら私と同じ理由のようだ。彼も今に至るまでの実績、つまりPK時代のPCキル数が人より多かった為に選抜された。そして、大火も。彼は伝説のアリーナチャンピオンと言われていた人物だから…どうやらPCキル数というのは、アリーナバトルでの数も含まれているらしい。というのは大火が語ったことだが、もちろんこのメンバーは榊が揃えたものだ。裏で糸を引いているに違いない。
闘う力がある限り逃げられない、ご指名ってのは燃える。二人はそう言い残して去って行った。どうして二人が、そんなに好戦的にこのアリーナバトルへ臨むのか。考えても、分からなかった。まさにこの世界全体がAIDAサーバー化していて、嬉々としてタウンPKを繰り広げる他のプレイヤー達と同じく、二人もその影響を受けているのかもしれない。…可能性は、高くなってきた。そして同時に恐ろしくもなった。今や碑文使いでなくなった私は、…


「シラバス、お待たせ。」
「メイカ!ガスパー、言っても聞かないんだよ!」
「オイラ、やるったらやるんだぁ!」


その後、ハセヲはパイ達とPKトーナメントに出場する為のメンバーを相談するといって出かけていった。…その件に関しては私の方も悠長にしている場合ではないけれど、一体どうしたらいいんだろうか。私がこのトーナメントを勝ち進む気がないというのは、どうせ榊には透けていることだろうが、不戦敗…なんてのは榊が許す訳もない。私は必ずバトルエリアに立つことになる。万が一AIDAPCと戦闘することになるのなら、碑文使いの誰かとパーティを組むのが理想ではある。協力を仰ぐべきだろうか…。
考えているうち、シラバスからショートメールが届いた。ブレグ・エポナの広場に来てほしいということで、やってきたところ…ガスパーはショップを開きたい、シラバスはそれを止めたいという攻防が繰り広げられていた。PKトーナメントのプレイヤー選抜は終了したようだが、此処ブレグ・エポナは未だPK可能エリアとなっている。以前のように、戦意のないPCをただ己の快楽の為PKするような輩も大勢いる。今ショップを開くのは、とても危険だ。…でも、私は彼らのこの世界の楽しみ方を、守りたい。


「やってみよう、ガスパー。私がついてるよ」
「メイカ…!ありがとうなんだぞぉ!」
「メイカ、ごめん…メイカはトーナメントも出て、忙しいのに…」
「何言ってるの。友達なんだから、頼ってよ」


ガスパーは、あんな怖い目にあったというのに…こんな状況になっても日常を守りたいのだろう。ショップを開くのに固執しているのは、きっとそういうこと。それに私だって…もう碑文使いじゃなくても、底辺の露払いくらいならいくらだって出来る。私やハセヲを受け入れて、助けてきてくれた大切な二人だから、もう悲しい思いをさせたくない。私に出来ることは、殆ど無くなってしまった。だから出来ることは何でもする。そう心に誓った。

その日の夜、亮くんから報告の電話があった。どうやら今回のハセヲチームは、ハセヲ、クーン、そしてアトリで編成したようだ。アトリは自らの意志でイニスを発現することが出来るようになったという。月の樹エリアの一件で多大な精神ダメージを負った彼女ならば、最早憑神を使いこなすのも時間の問題だろうとは思っていたが。守られてばかりのアトリは嫌、そう言った彼女の意志を尊重したのだと、ハセヲは言った。


『ただ、…アイツ、まだ自分の意志では憑神を操れない』
「それ…大丈夫、なの?」
『分からねぇ。でも、アトリはお前の為に戦うって言ってたんだ』


ハセヲが目にした、アトリの背後に発現した憑神、イニス。腕を広げ、まるで十字架に磔にされたかの如く。そうして沈黙を貫いていたという。碑文使いPCとしてAIDAの耐性を得た彼女は、このトーナメントを、私の為に戦うと言ったそうだ。メイカさんが力を持ったら、きっとそうするから、と。彼女は私の代わりに、この危険なトーナメントを戦おうとしてくれている。私の想いはハセヲが、そしてアトリが背負ってくれる。そう実感したのだった。


「えっ……」
『どうした、メイカ?』
「…エンデュランスから、メールが来てね…、さよならって書いてあるの…」
『…クソ。アイツ、何考えてやがる』


亮くんと電話をしながら徐ろに覗いたメールボックス。そこにはエンデュランスからのメール。内容は、ただ一言“さよなら”。ハセヲも、どうやら私のチームをエンデュランス、朔望で組むことを考えていたようだ。その打診を持ちかけようとしたところ、彼らに暫くは別行動させてもらうと言われてしまったらしい。
…彼らは、どうして私達の元を離れていくのだろう。エンデュランスは私の傍に居ると言ってくれた。支えてきてくれた、助けてくれた。だから、私もそれに応えたいと思っていた、…つもり、だったのに。しかし、よく考えてみれば私はもう彼の力になれることなんてないのだ、これからはきっと彼の力を借りるばかりになる。…不甲斐ない事だけれど。私は彼に、甘えすぎていた。届いた彼からの別れの言葉はあまりにも唐突で、その真意が掴めなくて、ただ唖然とするばかり。このメールに対しての返事は、出来なかった。



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