こんなときだからこそみんなの顔を見ておきたい、だからカナードの定例会を開くよ、そうシラバスから連絡があった。カナードの@homeは、ハセヲが碧聖宮の宮皇となり上級のギルドとして認められた為、ブレグ・エポナに移動されていた。今度はどんな豪華な内装になっている事だろう、と若干の期待を込め、その@homeへと向かっていた矢先の話だ。


「ガスパー…!!!」


シラバスとガスパーは得体の知れない二人組のPCに襲われていた。私の目の前で、彼らの剣がガスパーを貫いたのだ。そうだ、今は此処ブレグ・エポナもPK可能エリア…だからといって、戦意のないPCを一方的に手にかけるなんて。倒れたガスパーを抱き起こすシラバス、傍らで気味の悪い笑い声を上げるPC達。その光景に一瞬で沸点に達した私は、背後からその内の一人を刀剣で斬り付けた。ただの一振りでHPが尽きたらしい雑魚は悲鳴を上げて地に伏した。それを見下しながら、次いで隣のPCの首元に剣の背をひたりと突きつける。


「な、な、お前PKKの…!?おおお俺だけは、助けてくれ!!」
「…仲間を見捨てる気?遠慮しないでいいのよ。同じようにしてあげる」
「…!!そ、そんなつもりじゃ!」
「へぇ、…じゃあどんなつもりだったのか、私に分かるように教えて?…私の剣がアンタの喉を引き裂く前に…ッ!!!」
「ひぃぃい!!!」
「やめて、メイカ!ガスパーは無事だから…!」


刃を翻し、一閃とする直前…シラバスの声で一瞬躊躇した私の腕は、いつの間にかハセヲによって掴まれ制されていた。…やめろ。ハセヲの呟き。そうこうしている間に、PK達は撤退していった。どく、どく。自分の鼓動の音が耳元で鳴っているかのように煩い。倒れていたガスパーはふらりと起き上がり、弱い声で私の名前を呼んだ。それを聞いた私は弾かれたように彼の傍に駆け寄る。


「…ごめんシラバス、取り乱した。ハセヲも、止めてくれてありがと」
「気にすんな。悪いのはあいつらだ。お前がやらなきゃ、俺がやってた」
「…ダメだぞぉ、二人とも…暴力を暴力で解決なんて…」
「…そうだよね、ガスパー。嫌なところ見せちゃって、ごめんね…」
「そんなことないぞぉ、…ありがとう、メイカはいつもオイラのために戦ってくれるんだぁ」


そう言って、ガスパーは笑った。…どうして、こんなことになってしまうの。これでは、またガスパーはショップを開くのを、…この世界を、怖がる。以前と同じじゃないか。また、繰り返すのか。ハセヲは私の肩に手を置き、二人を守る為にも、現状出来る事をやるしかないと言った。そうだ、ハセヲにも、私にも…まだ、やれることはある。
一旦@home内に入り、落ち着いたところでハセヲやシラバス、ガスパーにも私がトーナメントの参加権を与えられた事を報告した。勿論ハセヲは体裁として棄権しろと言われたが、それが許されるのかどうかは、…口に出すまでもない。彼も充分に理解している。


「勝つ事は考えんなよ。勝ち上がれば上がるほど危険だ」
「うん、全部任せる事になっちゃうけど…ハセヲ、太白をお願いね」
「メイカ…ごめん、そんなことになってるなんて僕達知らなくて…」
「ふふ、大丈夫だってば。…また悲しい思いをさせちゃってごめん。もう少し待っていて」


…最近のこの世界はどこかおかしい。漠然とそんな風に思っていた。このPKトーナメントに異論を唱えるプレイヤーを見かけない、…いや、そもそもいないのかもしれない。人々の集合意識として否定的な意見が存在せず、個々の心の内に眠る破壊衝動を上手く刺激している。それはまるで月の樹エリアが乗っ取られたあの時のようで…この世界全体がAIDAサーバー化しているという可能性も充分ある。
あの八咫が、居場所を追われたから姿を消した、とは考えづらい。何にせよ、今はパイの報告を待つしかない。私達は榊の気を引き、時間を稼ぐ為に竜賢宮トーナメントへ参加することを決意したのだ。



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