竜賢宮タイトルマッチ。相も変わらず宮皇というのはワンマンプレーがお好きなのか、今回も宮皇である太白はたった一人でバトルエリアに現れ出でた。沸く観客の中、試合が開始されたというのに、敵の攻撃はまるで当たっていないかのよう…無傷の太白がそこに佇んでいるだけだ。…武器コレクターでもある太白が持つ剣、マクスウェル。あの剣が、敵の放つスペルを無効化しているようにも見える。視線は太白に向けたまま、隣の天狼は、やはりお前達を呼んで正解だったな、と呟いた。


「太白は、俺と同じなのではないか?」
「…天狼と、って」
「まさか…AIDAか!?」


もう一度。目を凝らしてみていると、剣の周囲に黒い斑。…天狼の言う通り、あれはAIDAだ。天狼の時とは違い、剣に取り憑いているのだろうか、その剣の造形はみるみるうちに禍々しいものへと変化していった。…怪物。そんな表現がよく似合うような。蠢く姿はまるで生き物だ。それは大きく口を開けて、叫んでいた。もっと食わせろ、と…。
その光景を目にした私は、思わず鳥肌を立てた。太白といえば、この世界でも有名なプレイヤーだ。長く竜賢宮宮皇の座を守り、天狼と同じく、強く気高く、格式高い。そんなイメージだ。本来はあんなではない、そう零した天狼の言葉の意味はよく分かる。あれはAIDAの侵食によるものだ。ここに来るまで、私達は何度も目にしてきた。あんな太白の姿は見たくない。そう思ったからこそ、天狼は自分を救ってくれたハセヲを此処に連れて来たのだろう。…ハセヲと太白は縁もゆかりもない。しかし、それは天狼の時も同じだ。ハセヲに希望を託したい、そう思う彼の気持ちが伝わってくる。ハセヲもその想いを承知したようで、任せろ、と頼もしい言葉を投げかけたのだった。それを聞いた天狼は、安堵の息を一つ落とした。


「変わったな。以前のお前は、他人を寄せ付けない男だった」
「…余裕がなかっただけだろ。」
「他人のことを背負い込む余裕ね。私達、自分の事しか考えられなかったのよ」
「耳が痛いな…。」


苦笑した天狼は太白に向き直り、お前達に話してよかった、太白を揺光のようにはしたくないと言った。
…揺光。彼女の最後の笑顔は、私達の支えだ。拳を握りしめ、揺光も太白も絶対に助ける、とハセヲは力強く言ったのだ。
太白がAIDAに感染し、トーナメントのシステムが変わったとするならば、そんなことが出来るのは…ただ一人しかいない。

── 頭が痛いとはまさにこの事。ハセヲ、天狼と別れログアウトしてみれば、私のメールボックスにあの榊からメールが届いていたのだ。最早メールを開く事も憚られるが、このまま放っておくのも恐ろしいので一応開封したというところ。内容は、PCメイカに竜賢宮トーナメントのシード枠を与えるといったもの。参加しなければ、この世界にAIDAをばらまく…とも記載されている。遂にプレイヤーの選別が終了したようだ。トーナメントの参加資格は“今日に至るまでのPKしたPC数”…PKKとして活動していた際に、どうも実績を積み上げてしまったらしい。日頃の行いがここに来て祟ったかと、思わず頭を抱えた。そうだ、何処かの掲示板で私はそろそろカオティックPK候補と言われていた程だもの。だが自分がこうなる事態を全く予想していなかった…。私が呼ばれるという事は、ハセヲは言わずもがなだろう。榊の目的は私達をPKトーナメントに呼び出すことだ。参加しなければ、この世界は大変な事になるかもしれない。しかし、一般PCとなった私が、万が一AIDAPCと戦う事になったら。志乃を、揺光を救う前に…私も未帰還者に…。


「…なーんてね。」


こんなことで、私が怯んで如何する。私だって仮にもPKK彼岸の腕と名を広めていたPCだ。太白の件もある手前、…勝ち進む気はないけれど、逃げる気もない。ハセヲには反対されるだろうが。



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