「ハセヲの、彼女さん?」
「はっ、!!?!!」


その後、ハセヲがお世話になったという初心者支援ギルド、カナードのシラバスとガスパーに出会った。ハセヲはこの二人の為にショップの店番をしていたという。軽く挨拶をすれば、シラバスは大きな声を出して驚き、ガスパーは獣人PC特有の可愛らしい耳を興奮した様子でパタパタとさせていた。彼らの話によると、どうやら私は昔彼らを助けたことがあるらしい。宜しくね、と手を差し出すと二人が後ずさりする。雲の上の存在だった私とこうして会話をしているなんて夢のようだ、と。なんて大袈裟な。半ば無理矢理二人の手を掴み、笑顔で握手。


「あのなぁ、前にエリアで怖い人達に絡まれた時に、メイカが助けてくれたんだぞぉ!」
「あの時ありがとうって言えなくて…本当にありがとう、メイカ!」
「そうなのか?」
「PK手当たり次第に倒してたからね。それで結果的に助けたことになったのかも」


あれから私のファンなのだ、というガスパーの頭を撫でる。自分の行いを批判されることはあれど、こうして誰かに感謝されることなど今まで一度もなかったから、不思議な気持ちになった。というよりも私がいない間、この二人がいたからこそハセヲは無事此処まで辿り着いたのだ、こちらこそ感謝しなければと思った。
そうして話していると、いつのまにか視界の端に、志乃、…と同型PCのアトリの姿が見えた。私への挨拶は会釈程度、ハセヲさん、と彼に笑顔で呼び掛け近寄ってくる。…ハセヲは、いつの間に彼女とそんなに仲良くなったのだろうか。訝しげな視線を彼に送る。


「ハセヲさんったらね…」
「そうなの、ハセヲ!?」
「…こそこそチャットしてんじゃねぇよ」


身内チャットで談笑するシラバス、ガスパー、アトリ、…そしてハセヲ。和気藹々とした彼らの様子に、私はついていけなかった。最近のこの世界では殺伐とした空気に身を浸していた、こんな雰囲気とは無縁の生活をしていたから、馴染み方を忘れてしまっていた。…何だか、少しの時間離れただけなのに、ハセヲには私の隣だけではなくて、別の居場所も出来たようだった。これまで私には、ハセヲの隣しかなかった、いらなかった。志乃を失ったハセヲが一人ぼっちになったのと同じで、私だって一人ぼっちになったのだ。その隣にいてくれたのは、ハセヲだった。彼が居てくれたから、私は此処に居るというのに…今の私には、君だけしかいないのに。そんな下らない独占欲に塗れた自分自身が、滑稽だった。


「…ごめんハセヲ、私行くね」
「落ちるのか?」
「ちょっと、学校の課題もあるから」


じゃあ、と彼らに一言断りそのままログアウト ── しようとして、気付けばシラバスとガスパーに手を掴まれていた。あのさ、メイカもカナードに入らない?シラバスが目を輝かせてそう言った。現在カナードはハセヲがギルドマスターとなっている、そこにメイカもいてくれれば、きっとうまくいく…ガスパーも笑顔で迫ってくる。初心者支援ギルドに少しばかり名の知れたPKKが二人というのは…私なんか入れたって、評判が下がるだけなんじゃないだろうか。困った視線を彼に向けると、隣のハセヲと目が合い、ぽんと肩に手を置かれ。


「強制な。」



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