「人は一人では生きていけない、…よね。」
「?…どうしたの、急に。」


── 緊張感のある戦いを切り抜け、私は久しぶりにエリアに出ていた。こうして自由に自分の意志でエリアを散策できるのはいつぶりのことだろうか、エンデュランスに声を掛けると彼は喜んで着いてきてくれた。晴天のエリア、きらきらと日差しが刺し、そよぐ風、体感こそ出来ないが気持ちも晴れる。ひとしきり冒険し、少し草原を散歩してから帰ろうとしていた時、エンデュランスがぽつりとそう呟いた。彼の顔を仰ぐと、微笑を浮かべていた。人は一人では生きていけない。…彼は今、私やハセヲの存在があるからこそこうして此処にいる。そういうことを言いたかったのか。彼がふと零したその言葉の重みを、彼の力を得た私とハセヲは背負っている。


「ずっと一緒だよ、約束したでしょう?」
「ああ。…ずっと。ボクはキミと…キミ達と一緒ならば、どこまでも進んでいけるよ」
「あはは、私達が死んだら、貴方も死ぬのよ」
「うん、…勿論さ」


キミ達を失うなんて、ボクにとっては死も同然なのだから。それに、キミが置いていかないと言ったんだ、着いて行くよ。そうしてエンデュランスは私の手を取った。…なんて頼もしいのだろう、私も自然と笑みが零れた。そうそう、私は晴天のエリアが好きなのよ、そう告げるとボクもだよ、なんて言う。調子がいい事を言うものだ。因みに、ボクが死んだらメイカはどうするの?なんて不安げな彼に問われたものだから、貴方が勝手に死ぬことは許可していないわ、と言い切った。すると彼は安心したように、その笑みを深めたのだった。

ハセヲからショートメールが来た。とあるエリアに一緒に来てほしいとのこと。指示通りにエンデュランスとドル・ドナへ戻り、カオスゲート前でハセヲと合流。聞けば、ハセヲの元に、フィロからのメールか届いたというのだ。…そんなことはありえない。

フィロは、既に亡くなっているのだから。

── フィロという人物は、この世界に古くから居るプレイヤーであった。いつもマク・アヌの運河に掛かる橋に居ることから“マク・アヌの置物”なんて呼ばれ、当時彼と知り合いでないPCの方が珍しいといったほど彼の友好関係はすさまじく広かった。殆どの時間をタウンで過ごしているようだったが、決して戦闘が不得手という訳ではなく、…彼はこの世界で様々な人と対話をすることこそを至高としていた。そして博識であったからこそ、この世界の皆の相談役として頼られていた、という印象。かくいう私も志乃によって彼に引き合わせられ、そして彼を頼っていた…黄昏の旅団にいた頃の話だ。オーヴァンが行方不明、黄昏の旅団が事実上解体となり、ギルドの面々と別れて暫くの間、私は志乃を失ったショックからこの世界を離れていた。結局はこうして戻りハセヲと再会、この世界で志乃を救う方法を模索しているが、あの頃は目まぐるしく色々な出来事があった、…そうしているうちにいつの間にか、フィロは亡くなっていたらしい、と聞いた。彼の姿をマク・アヌの橋で見掛ける事は、二度と無い。

メールの内容は、アドラの鍵を回収しロストグラウンド、ギャリオン・メイズ大神殿へと至れということだった。ギャリオン・メイズ大神殿にはロストウェポンという碑文を模した武器が封印されている、その封印を解く為に必要なのがアドラの鍵というアイテム。ハセヲがそこに足を踏み入れた時、声無きフィロの姿が漂っていた。ハセヲが辿り着いたと同時にメッセージが再生されるよう設定された、NPCに似たものが配置されていたという。


「ま、メール自体は、フィロのふりした大火のオッサンの仕業だったんだけどよ。」
「え。……え、大火?何で、彼が態々そんな事を…」
「…フィロに託されたんだと。」


大火は亡くなったフィロのプレイヤーに、ハセヲのことを託されていたのだった。これまでのアリーナバトルやジョブエクステンドイベントのアドバイス、全てはフィロの遺言の通りに大火が動いてくれていたということだ。何故これ程までに大火が無条件でハセヲの力になってくれているのか、という疑問がここで漸く紐解けたといえる。

繰り返すが、フィロは本当に博識だった。長く人生を生きたから、というだけでは言い表せないほど、全てを知り過ぎていたような気もする。フィロはハセヲを導き、こうしてロストウェポンに引き合わせた。八相の秘蹟、…スケィスを扱うことの出来るハセヲにのみ扱う事が許された、武器がそこにはある。それをハセヲが手に出来るということ、フィロはそれさえも分かっていたのだろう。だからこそその場所に、ハセヲへのメッセージを残せた。ロストウェポンを得よ、と。封印された武器は他にもあるが、フィロからのメッセージは私にはなかった。アドラの鍵を納め、ロストウェポンを得ることは、…きっとこの不完全な碑文使いである私には出来ない、ということなのだろう。致し方ない。


「て事で、お前ら着いてきてくれ。」
「え、何処に?」
「ギャリオン・メイズ大神殿。ロストウェポンを守る守護者が居る。そいつを倒す」
「成程、そういう“一緒に来てほしい”ね」
「…ボク達で、ハセヲの力になれる?」
「当然だろ。じゃなきゃ呼ばねぇ」
「分かったわ、行こう。エンデュランスも」
「…ありがとう、…ハセヲ、メイカ。」


人は一人では生きていけない。だからこそ、誰かに縋り、頼る。弱い生き物だから、互いに支え合わなくてはいけない。一人で立てる人なんていないのだから。…私達は、私達を仲間と呼んでくれる存在と手を取り合って生きていく ── 。



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