数日後、気晴らしに冒険に誘おうと、ハセヲへメールをしようとして…ふと、私の数少ないメンバーアドレス欄から彼の名前が消えている事に気付いた。一瞬何が起きたのか、よく分からないでいた。アドレスがないから、パーティーに誘うことはおろか、オンラインかオフラインかも確認できない。彼が、私の傍から消えてしまった。まるで、あの時の志乃のように。きっと彼の身に何かがあった。あの日、ハセヲの慌て様は尋常じゃなかった、私も彼を追いかけていたら、

もしかしたら、ハセヲも三爪痕に…!?


『勝手に殺すな』


震える手で携帯を取り、連絡先から彼の名を探す。当然此方には残っている、ハセヲ ── 三崎亮の名を呼び出し、恐る恐る電話を掛ける事にした。これでもし、彼が応答しなかったらいよいよ私は泣き出すだろうと思っていた、矢先、着信。画面に表示されたのは三崎亮、まさしく私が電話を掛けようとしていた彼だ、その電話口に彼は居たのだ。そして私の第一声は、亮くん死んでない!?だった。

現実世界で、私と彼が初めて顔を合わせたのは病院、志乃の入院先だった。最近の私は大学とバイトとで忙しく、病院に顔を出せるのは週に二回程。だが彼は私よりも頻繁に、ほぼ毎日志乃のお見舞いに来ているようだ。こうしている限りは、二つの世界で生存確認は出来るけれども…互いにいつ何処で、何があるか分からない。“何かあった時”の為にと現実世界でも連絡先を交換していた。こうして彼とは日頃から連絡を取り合うようになっていた、…本当に“何かあった時”という事態に遭遇しようとは、思っていなかったけれど。

すぐに連絡出来なくて悪かった。大変な事になったんだ、見てもらった方が早い。そう言った彼の話を詳しく聞く為に、ログイン後、直ぐにマク・アヌ中央広場まで走った。遠目に見ただけでも分かる。あの黒衣の錬装士…ハセヲだ。見目懐かしい、ジョブエクステンドしてない初期の姿になっている。


「ハセヲ!」
「いらっしゃいませぇえ!!…え」
「えーっと…、…何してるの?」
「メイカ!!?」
「自分で呼び出したんじゃない…」


そうして、何故かギルドショップの店番をしている彼の隣に座った。

ハセヲはあの日、私と別れてからあったこと、ここ数日のことを私に話してくれた。オーヴァンからメールが来て、グリーマ・レーヴ大聖堂へ向かったところで三爪痕と遭遇、戦闘を行ったものの一切の攻撃が通らない。その後奴の放った特殊な攻撃によって、ハセヲのデータが初期化された。ログインして直ぐに、初心者支援ギルドの人に助けてもらう事になったが、共に出たエリアで運悪くボルドーに襲われる。その時ハセヲ達を守ってくれた謎の女性が、ハセヲには特別な力があると言った。そして、月の樹の女の子、アトリと共に出たエリアにて三爪痕の傷跡を発見。そこから通じていたロストグラウンドで、自分が三爪痕に対抗する特別な“力”を持っているということに気付いた。


「三爪痕にはあらゆるダメージが通用しない。…でも俺の持っているこの“力”が使えるようになれば」
「…三爪痕を…倒せる?」
「三爪痕は、俺と同じ“力”を持つ人間から、“仕様を逸脱した存在”って言われてた。同じもの同士でしか、戦えない」
「私には使えないのかしら…その“力”は」
「それは、ちょーっと無理だね」


この“力”を使役出来るPCというのは、全てのプレイヤーの中でもほんのひと握りしか存在しない。普通のPCとは違うCC社の特別製…そんなものの一人が、ハセヲだったというの?…というか、このいきなり口を挟んできた軽口の水色ポニーテールの男の人は一体誰なのだろう。私に思い切りウインクをかました後、きりっとした表情で私の目の前に立って。


「過酷な戦いは男に任せておきなよ、お嬢さん」
「…そうも言ってられる状況じゃないの。私にはやるべき事が」
「ああっ…強い決意を宿す瞳!確固たる信念を持っている女性はどうしてこうも魅力的なのだろう!!」
「……、?」
「…メイカ、ほっとけ」


熱く語る彼を尻目に、ハセヲが詳しく説明してくれた。彼はクーンといい、ハセヲと同じ“力” ── 憑神を使えるPCの一人で、ハセヲがロストグラウンドで出会い、その“力”の存在を教えてくれた人物、その人であった。これからハセヲにも憑神を使えるようにするためサポートをしてくれるようだ。今、私達が求めているのは“核心的な情報”と“圧倒的な力”、それになりうる力をハセヲが手に入れようとしている。…膝の上で、拳を強く握った。


「ねぇ、ハセヲ」
「…どうした?」
「もし、ね、本当に“仕様を逸脱した存在”同士でしか戦えないのなら、」


私に、三爪痕を倒すことはできない。

本当にそうなら、私の存在など、必要ない。私には出来ることがないのだから。志乃を…親友を救うことなんて、私には出来ない。そうしたら、私が此処にいる意味なんて。そう呟いた私に、ハセヲは言った。メイカだけはいなくならないでくれ。オーヴァンも志乃も…ギルドさえもなくなって、一人ぼっちになった俺の傍にずっといてくれたのは、メイカ。お前だけなんだ。だから、此処にいる意味がないなんて言うな。


「お前が戦えなくても、俺が、メイカの分まで戦う。メイカのことも、志乃のことも、俺が全部守ってみせる。…ってこのレベル差で言われても信憑性ねぇか」
「…そんなことない。ありがと、ハセヲ」
「お前は俺の隣にいろ。俺が、お前の事必要だから。…それが此処にいる意味だ」


照れ屋なハセヲは一生懸命にそう言って、私が此処にいる意味をくれた。



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