── キミ達が、必要と言ってくれたから。

エンデュランスのお陰で、ハセヲ達は無事決勝戦を制した。ボルドーに取り憑いていたAIDAを吸収したスケィス、そのデータドレインによって彼女らは引き剥がされた訳だ。ボルドーがその後どうなったのかは知らない、恐らく無事ではいると思う。その時はハセヲ、パイ、エンデュランスの身が心配すぎてそんな事を確認している余裕はこれっぽっちもなかった。バトルエリアから引き上げてきた三人を見ては人目も気にせず、涙ながらに抱きついてしまった。本当に、無事に戻ってきてくれてよかった。いつの間にかいた朔望とメンバーアドレスを交換することになり、エンデュランス含め、また私達の周りに碑文使いが増えたのだった。

全ての真実を詳らかにしたいのなら、モルガナの八相を集める必要がある。その言葉の通り、事態は動いている。

後日、私のバイト終わりに合わせていつも通りに電話をくれた亮くん。早速と朔に誘われエンデュランス共に冒険へと出かけていたようだった。どうやら次の宮皇戦は、前回と同じくアトリを除いてパイ、エンデュランスとチームを組み挑むらしい。それもそうだ、次の戦いも天狼 ── 感染者との戦いになるのだから。そして亮くんは相変わらず忙しくあの世界を動き回っている為、私と居られない時にはエンデュランスに私についていてもらうようにと、彼へお願いしてくれたようだ。電話を取りながらパソコンを起動すると、確かにエンデュランスからメールが来ていた。ボクはキミの為にこの身を捧げる…といった熱烈な内容の長文だった。しかしエンデュランスならば憑神の扱いにも長けており、一緒に居てくれるならとても心強い。そうすれば、AIDAに狙われる可能性の高い私も、自由にあの世界を動ける。私を守る為にとパイが課した行動制限も、皆に会う時間が激減したことで少しばかりストレスになっていたところ。そろそろレイヴンの@homeと闘技場以外にも足を運びたくなってきた。


『…タイトルマッチの知らせが来た。』
「うん、…いよいよ天狼と戦うんだね。」
『…ああ、アイツの目を覚まさせてやる』
「そうだね、…」


きっと揺光もそれを望んでいる。電話機越しの沈黙。口に出さなくとも、彼と私の思考は重なっていた。


「私を試合に出させてくださいっ!!」


アリーナカウンター前、試合へと向かうハセヲ、パイ、そしてエンデュランスを見送る。今日は最初から全員揃っての参戦だ。私はエンデュランスがこうして力を貸してくれることが嬉しくて、そうして私が嬉しそうにしていると彼も嬉しそうにしてくれて。本当に良かった…そんなことを考えているうちに、彼らを見送る為、アトリがやってきた。アトリはハセヲの顔を見るなり、自分を試合に出してほしいと必死に懇願した。確かに、アトリが碑文を奪われてからというものAIDAの勢いは増すばかり、…彼女の気持ちも勿論分かる。原因はそうとは限らないが、すぐに自分を責めてしまうアトリのこと、この事象全ては自分のせいだと考えすぎてしまっているのだろう。…その立場は、私だったかもしれない。それを彼女が守ってくれたのだ。そう思えば胸が痛んだ。自分のせいで天狼が、揺光が、ボルドーが…その犠牲の責任を取らなければ。それは他人任せにしてはいけないのだ。聴いているだけでも辛いアトリの訴え、私は思わず彼女の肩に手を添える。アトリの悲痛な叫びは、パイによって遮られた。


「…碑文使いは無敵じゃないわ。」


パイは静かにそう言った。感染者のAIDAと渡り合える力は碑文使いの憑神のみ。互いに干渉出来る存在、つまり、此方がAIDAを駆逐出来るのならば、それは逆も然りということ。彼ら碑文使いでさえ、感染者との戦闘を経て果たして無事に戻って来る事が出来るのか…分からない。碑文使いとして開眼していない私達など、彼らの足手纏いでしかない。私達の想いは、彼らが背負って戦ってくれる。だからこそ私達がすることは、彼らの無事を祈ること…そう、アトリに説き伏せていた時だ。そこに、クーンがやってきたのは。


「クーン!?どうしてここに…」
「いや、まぁか弱い女性達が困っているようだったし、俺が彼女達の剣になれたら、ってね。」
「…か弱い女性、ねぇ。」


パイが不満げな声を漏らす。クーンからは先日状況報告のメールをもらっていたものの…姿を見たのは、レイヴンの@homeから彼が出て行ってしまった、あの時以来の事だった。久しぶりね、そう声を掛けるとクーンは困ったように笑った。彼は八咫やCC社の方針には相変わらず納得しておらず、しかし、だからと言って自分一人がG.U.を飛び出したところで何も変わらないと悟ったという。一刻も早くこの世界を安全な世界に戻す、それがクーンの目的、その為に一人奔走していたというのは知っている。そして今、彼は私達の隣に戻ってきた。…それは彼の妥協、そうするしかないと思ったから。
俺はハセヲに賭ける、クーンは小さく呟く。確かにハセヲや私は、他人から見れば自分達の正義だけを貫く身勝手な奴らかもしれない。それでも、私達が望むにしろ望まないにしろ、今は私達を仲間と慕う人が居る。本当に思いやりがない奴らなら、シラバスやガスパーはお前達を慕わないよ。そう言ってクーンは私にウインクした。
“力”、そして“優しさ”。今のハセヲはそれを併せ持っている。ハセヲなら、この世界を救うことが出来る。そんな壮大なことをクーンは考えていたようだ。話を聞いていたパイは態とらしく溜息を一つ漏らすと私の手を掴み、か弱い女性はサポートに回るから、とぼやきながら大股で歩いていった。クーンは嬉しそうに私達に手を振り、…このタイトルマッチ、ハセヲチームはハセヲ、クーン、エンデュランスの三人で試合へと臨むことが決まったのだった。



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