トーナメント決勝戦、VSボルドー“続・狙うは一つ”。単独行動を制限されている私はいつもトーナメントを観戦するとき、パイが付いていてくれたのだが今回はやむなく一人での観戦だった。なんと、パイの話していた感染者…決勝戦の相手は、あのボルドー。パーティに入れてくれと懇願するアトリを宥めて、ハセヲチームはハセヲ、パイ、エンデュランスでトーナメント登録を済ませ、実質二人だけでの参戦を決めた。…そう、エンデュランスは姿を現さなかった。

バトルエリアに揃ったプレイヤー達。ハセヲチームは二人だけか、と実況が騒いだ。ボルドー一派の面々は相変わらずであった…が、ボルドーの姿は一変していた。その半身は黒く禍々しいモノに侵食されている。あれは、恐らくAIDAが取り憑いた姿だ。自分は悪魔と契約した、この姿は自分の運命の姿であるとボルドーは叫んだ。次いで観客席、一人祈る私にボルドーの視線が向き、声は届かなかったが何かを口走った。…その瞬間、私の身体が震えた。ズタズタに愛してあげる。彼女の唇がそう動いた気がした。
試合が始まると、ハセヲチームはボルドー一派に非常に苦戦していた。ハセヲやパイも調査で忙しく、あまりレベル上げに精を出していなかったということもある。しかし、そのレベル差は戦闘技術を鑑みても僅かに補填出来ていない。後衛の居ないハセヲチームは削られたHPを回復することは出来ない、このままでは、二人は倒れてしまう…!気付くと私は、その試合を背に観客席を離れ走り出していた。…彼の元に行かなければならない、そう思った。


「…何処へ行くの?」


アリーナ入り口。私は一つの問い掛けに足を止める。恐る恐る顔を向けると、そこに居たのは、まさに私の探し人…エンデュランスだった。頑なに自分の殻に閉じこもり、私達の言葉を跳ね除けていたあの彼が、今此処にこうして駆けつけてくれた。届いたのだ。そう実感して、涙が出るほど嬉しかった。彼に駆け寄り、来てくれたんだねと微笑むが、彼は視線を逸らす。その表情は動揺に満ちていた。彼は此処に来てなお、迷っているようだった。一刻も早く試合に参加して、ハセヲを助けてほしい。そう思ったけれど、このままの彼を送り出すことがどうしても出来なかった。
私と彼は、会話したこともなければ、接点すらなかったのだ。そんな人物に絆されるなんて、と彼は思うのかもしれない。だからこそ今胸に抱えているモノ、全て私にぶつけてほしい。きっとここから新しく、始められるから。そう伝えると、エンデュランスはちらりと私を見遣る。


「…分からないんだ、何故キミがボクに近付きたがるのか…」


ボクは彼女と二人で居ればよかった。それは彼女以外がボクを受け入れてくれないと思ったから。でもキミ達はボクを必要だと言った。受け入れてくれた。…嬉しいと思った。でも考えれば考えるほど、分からない。どうしてボクを求めたの?それは、揺光が居なくなってしまったからじゃない?ボクは揺光の代わりなんじゃない?もし揺光が居なくならなかったら、キミ達はボクを求めたりなんてしなかっただろう?…揺光が戻ってきたら、キミ達はもうボクを必要としないんじゃないか?…ただ怖くて、足が竦んでしまうよ。
エンデュランスの言葉を聞いた私は、驚きのあまり呼吸を忘れてしまった。この人は、私と同じだ。…最近、私は同じようなことを考えて、不安で潰されそうになって…それをハセヲに打ち明けたばかりだった。彼の言っている事、その底知れぬ不安も、私なら、私だから分かってあげられる。そんな気がした。


「人に必要とされることって、怖いよね。その人を失ったら、と考えてしまう」
「…ボクはもう、もうあんな思いはしたくないんだ…、」
「…大丈夫だよ。」


エンデュランスの手を取り、両手でそっと包んだ。彼は驚いた様に息を呑んだ。


「私と貴方はよく似てるのよ。本当」
「……キミが、?」
「そう、だからどんな言葉が欲しいかも、分かる。」


漸くかち合った視線。手と手が触れ合ったことで、エンデュランスも私の持つ弱々しい憑神の存在を感知出来たらしい。エンデュランスが一番欲しい言葉を私が伝えられたら、私のことを信じてほしいの。そう、彼に微笑み。


「貴方の不安は、私が全て払ってあげる。」
「…、ああ…ああ、メイカ。」
「私は、…私達は貴方を一人にしない。貴方の強さの源になってみせるから」
「…うん…、うん」
「最期の時まで、一緒に居るよ。」
「メイカ…、…。」


そして、彼は私に緩く微笑んだ。行って来るよ。そう呟いて、私の手の甲に口付けを落とすような真似をした。本当の意味で、心を開いてくれた。私達は始められる。その動作が堪らなく愛おしく、思わずくすくすと笑ってしまった。行ってらっしゃい。そう言って、彼をアリーナへと送り出したのだった。

戻った観客席は熱狂の渦に飲まれていた。膝を付くパイの姿、その横には疲弊したハセヲ。ボルドー一派は誰一人として倒れておらず、余力を残してさえいた。ボルドーは大きな声で叫んでいた、揺光をヤッたのはアタシだと。その音声をスピーカーが拾い、会場に下衆た笑い声が響いた時、…私は湧き上がる黒い感情を抑えるのに必死で、噛みしめた自分の唇から血の味がするのが分かった。ハセヲは激高し、ボルドーに向かって飛び掛っていった。するとボルドーの身体からは無数の黒い手が伸び、一斉にハセヲを襲う。…あの黒い手は、以前私を、…アトリを貫いたモノ、AIDAだ。ハセヲを捕らえようと蠢く手は幾つか彼に避けられたものの、圧倒的な質量で彼を追い詰め遂にその行動を封じた。身動きの取れなくなったハセヲへ、彼を貫かんと更に伸びる黒い腕が向かう。思わず目を瞑ってしまう様な光景だった。

── 一瞬の静寂の後、目を開くと、会場には薔薇の花弁が舞っていた。


「フィナーレの時間だよ。」


…ああ、エンデュランスだ。彼の名前をメンバーに入れておいたから、彼が今から試合に参加するのは認められたようだ。驚いた表情のハセヲに、遅れてすまない、そう言って微笑んだエンデュランス。彼は徐ろに会場をゆるりと見回し、私の姿を見付けると嬉しそうに瞳を細めた。
ボルドーは自分の今の姿を運命の姿だと言った。だがエンデュランスはボルドーの姿を見て、君は醜いね、そして哀れだ、と言ってのけた。その言葉に怒りを顕わにしたボルドーは、遂に自身に宿るAIDAを顕現させる。…その姿は、蜘蛛。大きな蜘蛛の形を取っていた。エンデュランスはハセヲに自らの力を託し、ハセヲはスケィスを呼び出す。スケィスは彼らから受け取ったその力を乗せ、AIDAへと鎌を振り下ろしに掛かった。



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