トーナメント準決勝、VS楢“銀座”。って…ハセヲチームの今日の対戦相手は、前回ハセヲに手を貸した月の樹の楢、その人であった。一体どういうことなのか。此処に来ての同士討ちを避けたくて、ここにハセヲを勝ち上らせたのか…彼の真意は分からなかった。実況解説はお馴染みの大火、ハセヲの戦いを嬉しそうに見守っている。バトルエリアに現れたハセヲチーム、実況者によって“死神”と呼ばれる彼は、今日も大鎌で敵の首を削がんとしている。まるでヒヨコが鷹に化けた様、正にそれだ。楢は重槍を構える、その落ち着いたチームの風貌はハセヲチームとは真逆のものだった。このマッチアップ、…楢が何かを企んでいるとしたら。気を抜けない戦いだ。


「あら、松。」
「!?、メイカ!!!?メイカじゃねーか!!!!」
「ちょっと…煩いわね、静かにして」


パイと並んで観客席に腰掛ける。すると偶然にも、前の席に松が座っていた。観客達を掻き分け私の隣を陣取った松は興奮した様子だ。パイの口から飽きれたと言わんばかりの溜息。確かにこの世界で、互いのPCを目の前に会話をするのは久しぶりのことだった。松は、月の樹七枝会のアリーナ戦、しかも対ハセヲということで前回の柊、そして楢と此処に足を運んでいるそうだ。楢ってどんな人物なの?彼に問い掛けると、掴めないヤツだな、そう言ってやれやれと首を横に振った。

試合は互角だった。両者のHPゲージはじわじわと減っていく。バトルエリアに立っているのは、いつの間にかハセヲと楢の二人だけになっていた。リーダー同士が対峙し、── この一撃で、決まる。


「…、あんなモンじゃねぇ…」
「え?」


私の隣で、松が小さな声で呟く。ハセヲの実力は知らない、だが、楢の実力はこの程度のものではないと。同じギルドの隊長同士にのみ分かること、松がそう言うなら…きっとそうなのだろう。次の瞬間、ハセヲの大剣が楢を貫き、決着がついていた。楢はバトルエリアに膝を付く、叫ぶ実況、沸く観客。ハセヲは驚いた表情で楢を振り返り、何か会話している様子だった。まさか、楢は態と ── 。

久しぶりに、クーンからメールが入った。今、エリアでは新しいタイプのAIDAが出現し、意識不明者が増加してきているようだ。ハセヲにはエリア調査の協力を依頼したようで、彼は快く引き受けてくれ、無事AIDAを駆除出来た、と記されていた。彼は一人になっても、この世界を自分の手で守ろうと、犠牲者を減らそうと奔走していたらしい。…確かに、この世界の無数にあるエリアを一人で回ってAIDAを駆除するより、AIDAがその数を増やす方が早いだろう。…私に出来ることは無いけれど、私の今の状況(憑神開眼実験は悉く失敗しています、と)を伝え、出来ることがあれば力にならせてほしい、と返信した。クーンはあの時、すぐさまサーバーを封鎖しようと言った。私達はそれに反対し、そのままケンカ別れのようになってしまっていた。クーンは、頭の良い人だと思う。きっと八咫や…私達の言い分も分かってくれている。けれど、それぞれが何に正義を置くかは違う。やはりクーンは、今のG.U.には戻らないままなのだろう。


「もしもし、亮くん?如何し、」
『メイカッ!今すぐ…来てくれ!!揺光がっ…!!』


クーンからのメールに返信を終えると、亮くんからの着信。取ってみると、慌てた様子の亮くん。受話器越しに、コントローラーを乱雑に操作する音が聞こえる。その様子に、背筋を冷たいものが這う。通話に応答しながら急いでM2Dを手に取った。聞けばハセヲ宛に、揺光からメールが入っていたのだという。それは、天狼がおかしくなった原因を知るというプレイヤーからの連絡だったそうだ。呼びつけられた先は、ロストグラウンド。


「何を馬鹿なこと、…原因はAIDAなのに」
『嫌な予感がする…!!揺光、アイツが、』
「落ち着いて、亮くん。私も一緒に行くから」


息を切らした亮くん。諭す様に話し掛け、通話を切ると私は震える手でM2Dを被ったのだった。

ロストグラウンド ── コシュタ・バウア戦場跡。動揺するハセヲと合流し、訪れたその場所には、


「「揺光っ!!!」」


…倒れている、揺光の姿があった。


「揺光!!如何して、何で」
「…は、…ハセヲ、……メイカ、アタ、シ…」
「揺光、待って、嫌っ」
「……エンデュランス、を、捜せ…」
「お前、何を、」
「揺光っ!!」


ハセヲは倒れる揺光を抱き起こす。私は彼女の顔を覗き込み、頬に手を添える。光の粒となって音も無く消えていく彼女のPC。消えるな揺光、必死に呼び掛けるハセヲの声とは裏腹に、彼女は儚く笑みを浮かべていた。もう、二度と失くしたくない。失くさないと、決めていたのに。
だから仲間なんて、要らなかった。臆病な私はいつだってこの考えに至ってしまう。こんな想いをするくらいなら、…失うくらいなら、最初から、…私達は守りたくなってしまうから。揺光が、皆が、私達を支えてくれた。そんな仲間に、勝手になってくれていた、なのに…私達に近付くだけ近付いて、そうして勝手に、消えていく。私達を置いていく。如何して、何故傍に居てくれないの。私の弱気を払拭してくれるのは、揺光の役目だって…約束したばかりだったのに。

── 志乃。私達は、また…


「ハセヲ、…泣くんじゃないよ、オトコノコ、だろ…」
「揺光っ…!」
「…、メイカ、……アンタ、は…アタシが認めたオン、ナ…」
「やだ、揺光!!」


ハセヲを、…この戦いを、最後まで見守ってくれ。

── 彼を見守ってあげて。

そう言い残した揺光は、私達の目の前からその姿を消した。私達の瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。しかし、彼女は眉を下げてはいたものの、泣くどころか最後まで私達に笑顔を見せていたのだった。

彼女のその姿は、…私達の記憶の中、志乃を彷彿とさせた。



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