突然、揺光からショートメールが届いた。時間がある時会えないか、ということ。ハセヲと共にレベル上げに勤しんでいるはずの揺光から呼び出されるなんて、何かあったのだろうか。とはいえ私も、単独行動を禁止されている身だ。心配してくれているパイの為にも、その約束は破りたくない…。悩んだ結果、レイヴンの@homeがあるマク・アヌで、長居はしないと決め彼女を呼ぶことにした。

マク・アヌ傭兵地区。そういえばこの場所で、先日揺光はエンデュランスを見かけたと言っていた。そんなことをふんわりと思い出しているうちに、揺光は私に手を振り駆け寄ってきた。そんな彼女に小さく手を振り返す。港に着けた船の上、夕日を眺めて二人佇む。


「いきなり呼び出してごめんな!」
「ううん、私こそこんなところで。本当は冒険が良かったでしょう?」
「う、…アンタ、アタシの考えが読めるの?」


むむむ、と顔を顰める揺光。最近の彼女は真面目にアリーナ攻略に挑んでいるのだ。きっと以前のアトリのように、私からの戦闘指南が目的であったのだろうと容易に想像がついた。しかし彼女は、別段用事があったわけではない、会えるだけでいいんだ、なんて言う。彼女がそんなことを言うとは…ハセヲから何か聞いたのだろうか。


「前にさ、一緒に冒険に出掛けてくれただろ?あの時に思ったんだ…メイカは本当に強い奴だって!」
「…大袈裟よ、レベルが高いだけだわ」
「そんなことないさ、…アタシは今まで自分の力を過信しすぎてたって、思い知ったよ。」


その言葉に、思わず彼女を見遣った。彼女と私達の戦うべき場所は、今までずっと異なっていた。こんなことがなければ、共に戦うことなんてなかっただろう。彼女も、私達も、敵は…求める力は違った。それが今、同じ方向を向いているのだから不思議なものだ。
彼女が何故私に声を掛けてくれたのかといえば、やはりハセヲから話を聞いたのだという。勿論大まかな内容だけだろうが、自分はメイカとこの世界で顔を合わせることが少ない、時間がある時には声を掛けてやってくれと、彼は揺光に伝えたようだ。そうして律義に時間を作って会いに来てくれた。その気持ちは嬉しい限りだ。アトリのログインが制限された今、ハセヲとの鍛錬以外に出来る事を模索しているのだろう揺光は、…私がエリアに出ないことを不審に思っているかもしれないが、そのことには一切触れず、ハセヲと連携を取るためには何が大事なのかと私に聞いてきたのだった(そうだなぁ…)。


「…ねぇ、メイカ。アンタ…ハセヲとは付き合わないの?」


不意に、揺光は私の顔を覗き込み、楽し気に問いかけてきた。突然の質問に思わず後退ると、彼女は私の動作を見て可笑しいなぁと大笑いした。…どうやらその辺りはハセヲには聞いていないようだ。先日、亮くんと会った時にそんな話になっていた。というか、そんな話になったのも、揺光達がハセヲに言及したからだと思う。そうでなければ、お互いに言葉にして伝えるのはまだまだ先だったろう。
亮くんとは、状況はどうであれ、今お互いが一番特別な存在であると確認することが出来た。私は亮くんのことを大切に思っていて、きっとそれはこれからも変わらない。亮くんも、同じだと言ってくれる。


「でもね、私が臆病なの」
「メイカ…」
「私達の戦いが終わって、平穏な毎日を取り戻せた時、…その時まで、この関係に名前を付けないことにしたんだ」


彼を想っているから、彼を信じているから、今は最期まで彼の隣に居る。そうして全てが終結した時、私から彼に伝えたい。…だから、その時まで彼も同じ想いで居てくれたなら。今答えを出さないのは、彼の想いを試しているんじゃない。…私が臆病なだけなのだと。その気持ちも、彼は理解してくれている。そうして私の不安は彼が払ってくれると、言ってくれた。だから、


「やらなければならないことがある。私達は、それを最優先にすることにした」
「…気持ち、通じ合っているのに?」
「…約束したのよ。」


私は彼を信じ、彼は私を信じている。そうして、お互いの胸には何者にも覆せない想いがある筈だから。この状況を打破した時、それでもお互いがお互いを必要ならば…その時は、と。今の私達には、お互いが一番特別な存在であるという事実を伝え合うこと、手を取り合って共に進んでいけること、それで充分だった。そう呟き揺光に向かって微笑みかけると、揺光は同じように微笑んで、…それから少し俯いて、メイカには敵わないな、と呟いた。彼女にしては珍しく、しおらしい様子だった。


「…アタシ、羨ましくてさ。アンタ達みたいに強い絆で結ばれた人がいるって」
「うん、…私達も最初からって訳じゃない、二人で色んなこと分かち合ってきたからこそ。それに、揺光にだって。」
「え?」
「貴方と、分かち合いたいって言ってくれる人、いるじゃない。」
「!……、そうだった、な。」


天狼。彼を救う為に、私達は同じ方向を向いたのだ。揺光一人ではどうしようもなかったかもしれない、でも、今の揺光には私達が居る。縮こまった彼女の背中をばしんと強めに叩いて(いい音がした)、私達を味方に付けておいてそんな顔するなんて失礼だわ、シャキッとしてよ!と渇を入れる。すると揺光の目付きは変わり、私の背中を同じく強めに叩いて(結構いい音がした)、ありがとな!と大きな声で礼を言った。


「アンタは、このアタシが認めた数少ないオンナだ!アタシが弱気になってたら、また渇入れてくれよ!」
「お安い御用よ。その代わり、私が凹んでる時は揺光、頼むわね?」
「上等!!…これからも、宜しくな。」
「こちらこそ。」


揺光は私に拳を突き出した。私も彼女に倣って拳を突き出し、彼女のそれにぶつけた。オンナ同士の約束だと、彼女は言った。



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