アトリは手の容態を診てもらう為遠方の病院へ通うことを決めたようで、彼女から、暫くインしないが心配しないでほしい…といった旨のメールが届いていた。彼女も、この症状の原因はAIDAであると分かっているけれど、きっと私達に迷惑を掛けないように、…自分で出来ることをするつもりなんだ。寂しくなったらいつでも連絡して、とメールを返しておいた。

バイトから帰宅すると、亮くんから着信、いつもの流れ。ハセヲは、まだ知り合って日の浅い揺光と連携を図る為、共にレベル上げへと出かけていたようだ。揺光に、エンデュランスがどうなったか知っているか、そう問われたらしい。そう言われてみると、彼は行方を眩ませたとだけ聞いていたが…紅魔宮の宮皇戦以来、彼の姿を目にしてはいない。あれから色々なことが忙しなく起こって、正直なところ彼を気にかけている余裕はなかったのだが…。数日前揺光は、エンデュランスを見かけたらしい、場所はマク・アヌ傭兵地区。生気を失いまるで幽霊の様にタウンを彷徨っていたという。“ボクのミア”、そう繰り返し呟いて。


「“ミア”って…エンデュランスの猫のこと、よね」
『ああ、…揺光には言えなかったが、アレはAIDAが擬態していたモンだ』
「ハセヲがAIDAを駆逐したから、居なくなってしまった…」
『…心の拠り所を、無くしちまったのかな』


彼は唯一心を開き、愛していた存在を失ってしまった。…そう思えば、彼を不憫にも思えた。


『志乃に、会いてぇな。』
「…私も。」
『……そういえば、』


亮くんは思い出したように言った、冥花は、スイカズラの花言葉知ってるか?と。彼が何の事を言っているかは直ぐに分かった。花言葉なんてものをよく知っている人物は、私達の身の回りにはたった一人しかいなかったから。それは、


「“愛の絆”。」
『…やっぱりな、お前ならと思った。』


── 毎度の如く、レイヴンの@homeへ。パイに呼ばれ知識の蛇へと来てみれば、八咫は静かに私を見据え、漸く今まで実験の成果が出せるかもしれないと言う。これも毎度のことだ。何度同じ事を繰り返してきたのやら。今更特に期待せず、促されるまま台座の前まで来ると、私のPCデータのプログラミングを展開される。
知識の蛇、この場所は、この世界のシステム管理領域である。この場所では、一部を除きこの世界のあらゆるデータに干渉が出来る…そうして私という一個人のPCデータを解析し、これを強制的に書き換えることで憑神の開眼を促すというのが主な実験内容。人の手の及ぶ領域ではないモルガナ因子という存在、それに手を加えることなど出来るのだろうか。…というのも、その作業中何故か私は本当に痛みや疲労を感じるのだ。胸が焼けるような、いや、厳密には腕がもがれるような。ここまでくると、神の禁忌に触れているのではないか…などと、下らないことを考えてしまう。成る程これはハセヲには話せない、こんな人体実験じみたことを繰り返しているなんて…八咫を良く思っていない彼が何て言うか。それに、この負荷がアトリに耐えられる筈も無いだろう…。私こそが適格だと言ったパイの言葉が今になって沁みる。


「パイ、痛かったら手を上げてもいい?」
「いいわよ…手を握るくらいならしてあげる」
「ぐ、他人事みたいに言わないで…」


痛みを感じていること、それは君が碑文使いであることを示している。八咫はそう呟いた。碑文使いPCは一般PCとは違い、己の精神が強くPCとリンクし癒着している。その結果、意志の力で碑文に干渉し、憑神を発現させることが出来るということだ…。
この実験のルーティンとして、私のPCデータを弄り、パイを相手に戦闘を繰り返している。私の装備は初期装備へと強制変更され、実力だけでは絶対に勝てないように設定される。私を極限状態に追い込む為、慈悲も情けも無く私を殺す勢いで殴りかかってくるパイ(いつか殺されるかもしれない)。エリアに出ることが危険な以上、こうしてパイと対人戦をするしかないのだが…やはりこの程度では開眼には至らないかもしれない。彼らの憑神を呼ぶという感覚も全く掴めないでいる。…まだまだ先は長そうだ。

本日も成果は上げられず。



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