私だって彼と同じ感情を抱いている。彼の言葉が一言一句違わず、刺さる。彼が、誰かの隣で笑っているだなんて見たくも無い。だけど、私以外の人と関わりを持った彼は、どんどんいい方向に変わっていく。私と二人で居たときとは明らかに違う変化。それを嬉しく思っている、と同時に、自分を情けなくも思った。私だけでは、彼をこうは導いて来れなかった。私という存在は、彼の可能性を狭めてしまっている。私は彼を、独り占めにしてはいけない。みんなに頼られ、みんなの力になるハセヲはきっと、もっと成長する。なのに、私は勝手な独占欲で、その成長を阻害することしかしない。そして、何よりも拭えない思いがあった。

── 志乃が、戻ってきたら。

私達がこうもお互いに依存するようになったのも、元はといえば志乃が、オーヴァンが、旅団が無くなって、お互いが自分に残った唯一の存在だったから。今、様々な人達との関わりが増え、お互いにその存在が自分の傍から無くなることを何よりも恐れている。この大事な存在を誰にも取られたくない。いつだって一番傍で寄り添ってきた、私達。…この依存の気持ちを、恋と錯覚しているのではないか。私も、そして彼も。今の私達にはお互いだけ、というわけじゃない。私達を仲間と呼んでくれる存在がいる。だから、…


「…何で泣くんだよ。」
「う、…だって、」
「ったく…泣きたいのはこっちだっての」


彼にもらった言葉を真っ直ぐに受け止められなくて、ぐちゃぐちゃと色んなことが頭を巡って、何も言葉に出来なくなって、不甲斐ない自分が本当に嫌になって、…いつの間にかその思いは涙となって溢れていた。彼のカップは既に空となり、視界の片隅、ゴミ箱に投げ入れていた。片手に私の飲み残したレモンジュース、片手に泣きじゃくる私の手を取り、…私を家まで送ってくれるようだった。緩い足取りで歩く二人、徐ろにジュースを飲み、すっぱいなと呟く彼の横顔。ああ、それは間接キスだ、とふんわり思った。
私はいつもそうだ。亮くんは全て臆すことなく私に伝えてくれる、真正面からぶつかってくれるのに…私は思っている事を何も言えないで、…こうしてただ泣くだけなんて。臆病者。どうしてこんなことしか出来ないんだろう。そうして歩いていくうち、私の家に辿り着いた。亮くんはもう泣くなよ、と言って私の手を離し、頬を撫で涙を拭ってくれた。


「……分かってる。だから、大丈夫だ。」
「…、亮く、ん、…」
「さすがに全部とはいかねぇけど」


俺はお前に言わねぇと気が済まない、だから言う。けどお前にも全部言えってことじゃないから。…それに、大体伝わってる。そう言って、私の顔を覗く彼。


「俺達が俺達しか居なかったからだとしても…俺がこうして気持ちを持ったことは嘘じゃない」
「…っ、うん」
「お前もそうなら、…頼むから。自分を否定すんな」


こつり。額同士を合わせられ、 ── 瞳が近い。彼は、こんなにも私のことを理解してくれている。私がいかに自分に自信を持っていないかを。私は彼を心の底から信じると決めた。そんな彼が、私を信じてくれているというのに。彼が信じてくれる私を、私自身が信じられなかったなんて。私こそが、私自身を信じてあげなければ…それは彼の思いを裏切ってしまうことに他ならない。
自信がなかった。お互いにお互いしかいなかったから、彼は私を特別に思ってくれた。それが解消されたら。お互いがお互いだけじゃなくなってしまったら、…私はそれでも彼に特別に思ってもらえるの?そして、その時私は何を思うの?君が私を必要としなくなる、そんな未来が少しでも見えてしまうなら、


「最初から、離れてしまえば良いんだって、思ってしまって」
「…馬ッ鹿じゃねーの」
「そんなこと、出来る訳無いのに、ね」
「…俺がさせねぇ」
「君の強さを、奪っているばかりの自分が嫌い、」 
「違うだろ。もっと他に言うことがあるクセに」
「……やだ、」
「、…ああ」
「やだ、君を誰にも取られたくない、…私以外大切にしないで」
「…しねぇよ。約束しただろ、」
「私の不安を、全部、君が否定して」
「任せろ」
「…ふふ」
「……、オイ。何笑ってんだ」
「…ねぇ、亮くん」


── 私には、君だけだ。



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