結論から言うと、いつも通り情報を得ることは出来なかった。ハセヲが大剣で首に一閃、親分のボルドーは崩れ落ちた。辺りにはPKの残骸。踵を返して、私達はエリアを後にした。
「雑魚だったね、二人でやるまでもなかったかな」
「ああ。次の獲物を見つけるとするか…」
マク・アヌへと戻り、息抜きにクエストでもやる?と話をしていると、道すがら私達の名を呼ぶ人物がいた。足を止めて振り返ると、その人物はだらだらと偉そうに説教を始めたのだ。確かに私達の行為はとても褒められたものでは無いけれど、私達には必ず達成させなければならない目的がある。他人に気安く否定される筋合いはない。その目的を話してやる義理はないが、彼は私達の行動を理にかなっていないだとか、無益な行為だとか言う。私達を悪く言う人間はごまんと居るのだ、その全てにいちいち腹を立てたりなどはしないが、私達をPKKと知って顔を突き合わせ、喧嘩を売ってくるなんて余程の自信家か。…なんて、よく見たらこの世界の風紀委員ギルド、月の樹のお偉方ではないか。二番隊の榊、彼はそう名乗った。
「生憎、お友達の勧誘なら間に合ってるぜ」
「次に声掛けるならエリアにしてね」
行くぞメイカ、と先に歩き出したハセヲ。私は榊にひらりと手を振り彼の後に続いた。そのままその場を去るべく歩き出すと、榊の隣に居た女の子は私達の後をついてきて、こう言った。人の話は最後まで聞きましょ、と…。
「「志乃…!」」
「えっ?」
その発言に気を取られ視線をやると、そこには志乃が ── …居る訳は無い、話し掛けてきた女の子は志乃と同型のPCを使っていた、アトリという女の子だった。何故今、こんな所で出会うのだろう。別段珍しいことではないといえ、思わせぶりなことを…いや、彼女に全く罪はない。
突如、空をきょろきょろし始めたハセヲは、ハッと息を飲むと目の前の榊とアトリを押しのけて走り始めた。走り去っていくハセヲに声を掛けるが、聞こえていないらしくそのままカオスゲートへと消えていってしまった。ショートメールで緊急の呼び出しでもあっただろうか。残された私は、態とらしく溜息をついてみせ、相変わらず説教口調で何かを語っている榊を無視してログアウトした。
志乃。
「愛想を尽かしちゃったのかもね、この世界に」
かつて少女の像が置いてあったという台座の前で、志乃はそう言っていた。志乃は自分がPKされること、そしてただではすまない…実際には意識不明になることを、あの時既に分かっていた筈だ。どうして私にそれを伝えたの。どうして助けを求めなかったの。
「私の意志だってこと」
こうなるのが、志乃の意志だった?
「彼を恨まないで」
── 三爪痕、を?
「彼を見守ってあげて」
…ハセヲ ── ?
途方も無く、嫌な予感がした。
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