『よう、元気か?メイカ』
「お陰様で、…アンタも相変わらずね、松」


ハセヲが碧聖宮へ挑むと決めた、あの日から私と彼は再び別行動となった。ハセヲは紅魔宮からまた一段攻略難易度の高い碧聖宮へと挑む為に、レベル上げに勤しんでいる。私はといえば、単独行動を禁止されている為、めっきりこの世界から離れていた。今やこの世界にやってくるのは、パイから呼び出され憑神の実験の為にレイヴンの@homeへ向かうときくらいだ。ハセヲとは現実世界で連絡を取り合っているので、メールボックスも偶にしか覗かないが、暫く顔を合わせていないシラバス、ガスパー…アトリからも様子伺いのメールが来ていた。
そして、この松という男は日頃から私に大量にメールを送ってくるもので、私からのメールの返事が滞るようになった為か私が以前よりもこの世界から離れているということに誰よりも早く気付き、私がこの世界にいる僅かな時間をインアウト監視しているのかというレベルで察知し、ちょっとでもいいから会いたいなどとショートメールを寄越す…というストーカー並の荒業をやってのけた。詳しい事情を説明するわけにもいかず、あまりこの世界に長居するわけにもいかず…こうして現実世界での連絡先を交換するに至った。松は特に詳しい事情を聞きだそうともせず、私が傍にいればそれでいいと言う。正直、私を必要としてくれる人はハセヲくらいしかいない。ハセヲが多忙な今、誰かに必要とされることに、飢えているのかもしれない…私は彼、── 真吾に甘えている。


『ハセヲ、次は碧聖宮に挑むんだって?話題になってたぜ、紅魔宮宮皇の座を早々に返還…ってな』
「そう、今はレベル上げ中。」
『どうせ宮皇になりたくてやってんじゃねぇんだろ、アイツ』
「…へぇ、どうしてそう思うの?」
『PKK死の恐怖が、急にPK辞めてアリーナ戦にお熱たぁ只事じゃねーだろ』


お前もな。そう言われればそうだ、もう私達にはPKをする理由はない。そもそも私もハセヲも好んでPKを始めたわけではないのだから、理由がなくなればそんなものはすぐに止める。今の私達にはレイヴン、G.U.がある。…ただ周囲から見れば異様だったろう。松がこうして私に友好的な態度でいるのも、私達がPK行為を止めたからだと思う。
周囲の人にはゲームジャンキーと呼ばれている我らがハセヲ、亮くんは非常にマメな性格をしている。私と違ってあの世界にはほぼ毎日顔を出しているようだし、こうして顔を合わせない日が続けば、その度あったことを私に報告してくれる。…私の寂しさを紛らわそうとしてくれる。本日も例外なく亮くんからの連絡があり、真吾からの電話をぶち切って応答すれば通話中であったことを追及され、しどろもどろに説明すれば彼はすっかり機嫌を損ねてしまった。何とか口を開いてくれた彼は、アトリと一緒にカナードへトーナメントの件を報告してきた、と言った。確かに、前回は半ば無理矢理シラバスをアリーナメンバーへと誘い出場していた。ここにきて勝手に紅魔宮宮皇を返還し、碧聖宮に参加するというのに無断でメンバーを変える…だなんて、あまり印象がよくないだろう。シラバスは、自分は初心者をサポートしているほうが性に合っていると笑って了承してくれたというが。…彼はそういう人だ。

ハセヲのトーナメント初戦。今回のハセヲチームはシード権の位置、本選からのスタートになる。試合を観戦してほしいとハセヲにお願いされたこともあり、パイに一緒に来てくれないかと頼み込み、彼女を連れて久しぶりにこの世界を出歩くことになった。パイに断りを入れて、アリーナカウンター前、私を待つハセヲ達と久しぶりに顔を合わせる。ハセヲ、と呼び掛ければ振り向いた彼は至極嬉しそうな顔をした。…少し照れた。


「ハセヲ。ちゃんと見てるから、頑張って」
「は、俺が負けるわけねーだろ」
「ふふ、心配してないけどね」
「…たりめーだ」


ふん、とそっぽを向くハセヲの頭をそっと撫でる。


「メイカ!元気にしていたかい?」
「勿論よ。揺光、応援してるね」
「ああ!今日の為に修行してきた!」
「頼もしいわ」


満面の笑みを見せる揺光の肩をぽんと叩く。


「メイカさん、お久しぶりです!」
「アトリ、メールありがとう。ハセヲのこと頼むわね」
「はいっ!」
「頑張って、いってらっしゃい」


健気なアトリの光散る手をきゅっと握る。

ハセヲのこと頼む…ってさ、やっぱりメイカはハセヲの彼女なの?やり取りを見ていた揺光はそう尋ねてきた。ハセヲとアトリは素っ頓狂な声をあげた。それからハセヲは、私と揺光を交互に見て、狼狽えていた。…彼は何と答えるのだろうかと、少し興味もあった。その答えを待ち、私はただひたすらに黙っていた…すると、少しの静寂の後、小さな声でハセヲは言った。彼女じゃない、と。


「…でも」
「でも?」
「俺にはメイカだけだ。…行くぞ」


踵を返し、去っていくハセヲ。弾かれたように彼を追いかける揺光、アトリ。…置き去りにされた私の頬は紅い。



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