シラバスからメールをもらい、カナードの@homeがドル・ドナへと移動した旨を聞いた。ハセヲが紅魔宮の宮皇となった為、彼の所属するこのギルドは初級ギルドから中級ギルドへとランクアップしたようだ。このΘサーバータウンドル・ドナというのは特に大きな施設が併設されている訳でもなく、言ってしまえばまさに中級プレイヤーの中継ポイント。私なんかは最後にこの景色を見たのは何時だっただろう、というレベル。

カナードの@homeへ顔を出す。今迄の簡素なスペースではなく、煌びやかさのある豪華な内装となっていた。メイカ、私の名を呼ぶ声が部屋の奥から聞こえる。視線を向ければハセヲがひらり、私に向けて手を上げた。どうやら先程までシラバス、ガスパーと共にクエストに出ていたようだ。ハセヲは相変わらず二人と仲良くやっているみたい。周りの全てが敵だった、この殺伐とした世界をずっとハセヲと二人きりで生きてきた。そんな私達を受け入れてくれた彼らは、間違いなく私達の大事な友達だ。

ハセヲと暫く談笑した後、パイからショートメールを受信。時間があるときマク・アヌへ来てほしい、とのこと。ハセヲもそろそろログアウトするというので、私はマク・アヌへ向かうことにした。


「待ちなってば!天狼!!」
「“あれ”は渡さんぞ!“あれ”は俺のだ!!」


カオスゲートへと向かう途中、大声で言い争うPCを見付けた。やけに見覚えのある、…よく見れば、揺光と天狼ではないか。揺光はハセヲと紅魔宮で戦っていた、天狼も最近イコロの@homeで見かけたばかりなのだから、恐らく間違いない。天狼は身体を大きく揺らしぶつぶつと何かを呟きながら、揺光の必死の制止を振り切ってカオスゲートへと消えていった。あんな奴だったっけ?と隣のハセヲに問い掛けられる。彼と関わり合った事は無いけれど、随分と印象が違うと思ったのはどうやら私だけではなかったようだ。
取り残され呆然としている揺光に声を掛けてみる。振り返り私達を視界に入れた揺光はきっ、ときつくハセヲを睨み言った。オマエのせいだ、と。そうして去っていく揺光を見送り、二人揃って首を傾げたのだった。


「ごめんなさい、用件より先に伝えることが出来たわ」


ハセヲと別れ、マク・アヌ中央広場で待ち合わせたパイからの第一声。碧聖宮のタイトルマッチでAIDA反応があった、とのことだった。碧聖宮といえば、確か碧聖宮の宮皇は、── 天狼。先程目にしたばかりの彼の姿を脳内に思い浮かべながら、何だかとっても心当たりがある、と彼女に返した。
パイの用件はといえば、私の憑神に関してのことだ。私のPCに宿る僅かな碑文データを元に憑神を開眼出来ないかと、八咫とパイが尽力してくれているようだ。…八咫とは先日言い争いになってから、顔を合わせていない。そのことを考慮して、パイは態々レイヴンの@homeではない場所に私を呼び出したのだろう。
私の持つ碑文のデータは、アトリと分かたれている為大幅に欠損している。ハセヲのように自身を窮地に追い込む、等といった状況をつくることで開眼するかといえば根本がそういうことではない。先ずはこの碑文データを増幅し、一体の憑神として形成することが出来るかどうかを実験していく、とのこと。一体のPCに碑文データを寄せることが出来ない以上、この実験を進めるしかない。碑文使いとしての精神力なら、アトリより私の方が上。実験に適しているのも、開眼の可能性が高いのも、私。だからメイカにこそ協力してほしい、そうパイに告げられた。勿論二つ返事で頷いた。この憑神が使えるようになるなら、ハセヲと共に戦っていけるのなら私はどんなことだって ── そう言ってくれると思った、とパイは薄く笑みを浮かべた。


「…ただ…、」
「?」
「…気を付けて、メイカ。なるべく単独行動を避けて」


アトリから碑文を奪ったAIDAは、メイカやアトリの中に碑文が存在していることを知って襲ってきたはず。そして、奴は恐らくそのデータが完全でないことに気付いている。もしかしたら、残りのデータを持っているのがメイカであることをとっくに知っていて、憑神を発現出来ない今を狙われるかも。パイはそう言うのだ。出来るなら常に碑文使いと行動を共にしていてほしい、そして、念の為天狼には接触しないでほしい、と。


「何かあってからでは遅いの。貴女に、お嬢さんと同じ目にあってほしくない」
「分かってるよ。いつも心配してくれてありがとうね、パイ」
「…馬鹿。」



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