私は刈る者。人々が畏怖する存在。そうなることを、自ら望んだ。

── 紅衣の錬装士、“彼岸の腕”。


「三爪痕って知ってる?」


足元にPKを転がして、肩に構えた大剣をしまう。有用性のある情報は得られず、どうやらまたハズレを引いたらしい。日々繰り返しているこの作業ともいえる行動、時間が永遠にも感じられる。…まぁ、何にせよ、私は志乃をPKした“三爪痕”の手掛かりを探す為、こうするしかないのだ。

志乃はこの事態を予感していた。自分がPKされること…いや、きっと、意識不明になることさえも。あの日、志乃が言った“彼”とは誰のことなのか、私は未だに分かっていない。彼女が、物事を端的に言わず含みのある表現をするというのは昔からのクセのようなもので、私は幼い頃から随分とそれに付き合ってきたのだ。私であればその意図を解明できると、思っていた、のに。その事実を認めたくなくて、今はその時ではないのかもしれないと、自分に言い聞かせていた。

唇から滑り落ちたひとつの溜め息の後、さて、気持ちを切り替えエリア奥に向かおうと振り返れば、此方へと歩を進める一人のPCに気付く。黒衣の錬装士、“死の恐怖” ── ハセヲ。


「先越されたか」
「ごめんね、狙ってた?」
「ま、結果は変わんねぇよ」


どうだった?と聞かれたので、首を横に振る。ハセヲは残念そうに項垂れた。暗くなってしまった空気を払拭するように声を張り上げ、まだまだ、頑張ろ!そう言って、丸まった彼の背中をぽん、と叩いた。

── ハセヲと私は、目的を同じして集う友人。出会いは黄昏の旅団。オーヴァンをギルドマスターにした“キーオブザトワイライト”を探す為のギルド…志乃に誘われた私は、黄昏の旅団に身を置いていた。そこに、初心者狩りPKの被害からオーヴァンに助けられたハセヲがやってきたことで、知り合ったのだ。この世界に存在するかどうかも分からない不確かなものを探す、そんな日々の中、メンバーと過ごす時間というのはとてもあたたかで、幸せなものだった。
しかし、幸せは永遠には続かないとはよく言ったもので…後にオーヴァンは消え、志乃がPKされた。志乃はそのまま現実世界でも、意識不明になった。この事実を受け、ギルドは事実上消滅、解体となる。まるで家族のようだったギルドのメンバーとは離れ離れ。各々この世界との向き合い方を変え、この世界を去った者も居る。私もこの世界のいちプレイヤーに戻った。
私は、志乃が意識不明となった、その原因を探ることにした。手掛かりはただ一つ、“PKされて意識不明になった”…ということ。掲示板などで調べてみると、そこで、伝説の“三爪痕”というPKに行き着いた。この三爪痕、プレイヤー間では“奴にPKされると二度とゲームに復帰出来ない”という噂があるようだ。志乃の状況はこれに酷似しており、彼女と三爪痕が接触した確率は極めて高いと判断した。奴に接触することが出来れば、何かわかるかもしれない。相手は伝説のPK…だったら、誰から情報をもらうのが一番手っ取り早い?

そんなのPKに決まってるだろう。

PKになど毛程も興味のなかった私はその結論に辿り着く、私がPKに接触していれば、いつかきっと奴の足取りを掴める。…程なくして私はPKKとしての活動を始めた。その頃、同じ目的に至ったハセヲと再会。今は、情報を共有する仲間として共に行動している。

── あれから、数ヶ月。状況は進展しておらず、情報収集も困難を極めているのだった。


「そうだ。奥のエリアにね、さっきの親分いるみたいよ」
「へぇ。行くか」


今し方倒したPKが姉御、姉御と呼んでいたので、この先に居るであろう人物は先程より多少歯応えがありそうだ。一人でもそちらに向かうつもりだったが、ハセヲがいるので早く終わるだろう。黄昏時のエリアを、二人並んで歩いていく。耳を澄ませば彼方から、誰かの叫び声が聞こえる。間違いない。ハセヲの目を見て、にやり笑い合う。


「三爪痕を知ってるか?」



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