あれから、レイヴンの@homeへ帰ってきた。目の前には横たわるアトリ。アトリは一向に目を覚まさない。…呼びかけ続けても反応のないアトリに、それでも彼女の肩を揺すっている私。そんな私達を、ハセヲやパイ、クーンが黙って見ていた。
アトリを襲った“何か”。八咫の解析によれば、あれはAIDAだったようだ。もしかしたら、このまま未帰還者になってしまうの?…私のせいで?

如何して私なんか守ったの、アトリ。


「メイカ……」


ハセヲは私の肩を叩いた。私の目には涙が滲んでいた。しゃがんでいた私の手を引き、そのまま一度@homeの外に連れていってくれた。あんまり、自分を責めんなよ。守れなかったのは、俺も同じだ。ハセヲはそう言って私の頭を撫でた。しかし、嫌でもフラッシュバックするのだ、彼女が倒れるあの瞬間の光景が。もし、このままアトリが目を覚まさなかったら。…私はまた失ってしまう。そう呟いた私、頬に零れた涙を、ハセヲが拭ってくれた。彼の瞳が、私を覗き込んでいる。…いつもより、その瞳が、近い気がした。

気が付くとクーンが@homeから出てきて、アトリが目を覚ましたと教えてくれた。急いで@homeへと戻る。


『オーヴァンさんに言われて…音が聞こえてきて!それで!!』


目を覚ましたばかりのアトリは現状がよく分からずに、錯乱していた。やはりアトリがあの場所へ向かったのは、オーヴァンの差し金だった。己の力(アトリが碑文使い候補であると、何故かオーヴァンは知っていたのだ)を見せれば私達がアトリを求めるとでも、言ったのだろう。アトリはクーンの憑神、メイガスによりあの認知外空間を脱出したことを今し方思い出したようだった。
そして、何故かアトリの声は、聞こえなくなっていた。マイクの不調か、アトリに一度ログアウトし再ログインをするよう促すが、アウトエフェクトは出るもののPCの姿が消えずにいる。


『ログアウト…出来ない』


ログアウト出来ない。アトリは言う。私、どこにいるんだっけ、コントローラーも机もM2Dも、無い。その言葉にパイ、クーン、ハセヲ、…そして私が一斉に気付く。

今、私達はこの世界を直接、見ている。


「リアルの俺はどこ行ったんだ!?」


現実世界の私。この世界にいる私を、画面越しに見ながらコントローラーを握っているはずの私が、どこにもいない。私達もアトリと同じように、ログアウトが出来ない状況になっている。悪い夢でも見てるのか…?クーンはそう呟いた。
現れた八咫により、現在、私達だけでなくこの世界にログインしている全てのプレイヤーがログアウト出来ず、本当にゲームの中にいると伝えられる。恐らくAIDA現象だということだ。先程AIDAと接触した私達だけでなく、全てのプレイヤーが、というのは規模が大きすぎて、程度がイマイチよく分からない。

そうしてパイはエリア、クーンはルミナ・クロス、私とハセヲはマク・アヌの調査をすることとなった。


「アトリはここで休んでいて」
『で、でも私…』
「大丈夫、私達でやってくるから」


声の出ないアトリ。私は漸くお礼を伝えられた。先程の認知外空間での事、私を守ってくれてありがとう。そのせいでアトリが目を覚まさなかったら、なんて思ったら本当に怖かった。もう無茶はしないで、誰も失いたくないの。アトリは、メイカさんがお友達になろうって言ってくれたの、本当に嬉しかったんです。メイカさんが危ないと思ったら、勝手に身体が動いちゃって、とはにかんでいた。…馬鹿ね。アトリの頬をぺち、と軽く叩く。そうして私とハセヲはマク・アヌの街へと繰り出していった。

アトリが手を隠している事にも気付かずに。



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