── ハセヲは、強かった。私の知っているハセヲではないような気がした。

三爪痕に、データドレインを放つスケィス。身体が崩れ、散っていく三爪痕…ハセヲが憑神を解除し私とアトリの目の前に帰ってきた時、三爪痕のPCは再び崩れ落ちていった。だが、今度は修復する素振りを見せない。


「待て!未帰還者を元に戻す方法を…!」


そう言いかけたハセヲの言葉虚しく、三爪痕は私達の目の前で砕けて散った。

この空間は、今までの出来事などなかったかのように静寂を取り戻していた。しんと静まり返った真っ白な空間、…収穫はなし、ね。そう言ったパイの言葉で気付いた。私達が追っていた未帰還者を戻す手がかり…その根源、三爪痕はたった今、この事態の解決の糸口など何も残さず消滅してしまったのだ ── 。





ぎい。





ふと、振り返ると、背にしていたコインロッカーの扉がひとつ、開いていた。





音がする。





開いた扉の内から“何か”に呼ばれたような気がして、私はすらりと手を伸ばす。





突如、コインロッカーの全ての扉が開いた。





「メイカ!!!!そこから離れろっ!!!」


ハセヲの言葉に反応する間もなく、コインロッカーから“何か”が勢い良く飛び出してくるのが見えた。黒い、無数の手。そんな風に見えた。私を求めている。呼んでいる。此方にと、呼んでいるのだ。


「メイカさんっ!!!!」


これは一体何だろう。頭の中で悠長に考えていると、どん、と強く身体を押された感覚があった。


「きゃあああああああ!!!」


耳を劈くようなアトリの悲鳴。そして漸く理解した。アトリは私を求める“何か”から、私を遠ざけたのだ。“何か”はアトリの身体に突き刺さり、彼女の身体を貪っている。これは、なんだ。目の前の状況は全くの意味不明だった。ただアトリは私を突き飛ばして、自分が代わりに“何か”に貫かれた。それだけは間違いなかった。…そんな、まさか、私を守る為に、





アトリの身体を貫いた“何か”は、再び勢い良くコインロッカーへ戻っていき…





アトリの身体が倒れていくのが、やけにスローで見えていて…





私は慌ててアトリを抱き止めたのだった ── 。



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