私が変わった理由、彼が変わった理由、それぞれ同じ、だけど同じようで違う。それは彼と私の根本的な差。変わらざるを得なかった理由を、解決出来る術を持っているか、持っていないか。

この物語の主人公は自分であるか、ないか。


「メイカ」


志乃に呼び出された私は、此処グリーマ・レーヴ大聖堂へと訪れていた。両開きのドアを開けると、先に到着していた彼女の後姿が目に入る。聖堂中央、像の消えた台座を見つめていた志乃がゆっくりと振り返り、優しく微笑んだ。薄明かり、差す光が彼女を神々しく見せていた。…まるで、聖母のよう。
私と志乃は幼馴染で、現実世界も、この世界も、殆ど共に時間を過ごしている。だから態々時間指定付きで、この場所に一人で来て、だなんてメールを受けたものだから私は心底驚いてしまった。こんな場所で、改まって伝えたいことがあるのだろうか。私はかつり、かつりとヒールを鳴らして、彼女の目の前で立ち止まる。志乃は、いつもみたいに眉を下げ儚い笑みを浮かべている。その笑みは、私は見たことのない、かつて此処に居たという女神…そのさながらに美しいのではないかと、ぼんやり思った。あのね、メイカ。志乃が徐ろに口を開く。


「私が、世界からいなくなったとして、頼みたいことがあるんだ」


一体何を言い出すのか。突拍子もない彼女の発言、その意図を掴めぬままの私に、彼女はこう続けたのだ。彼を恨まないで、彼を見守ってあげて。でも、これは誰にも言わないで。全ては私の意志だってこと、メイカだけが知っていて。
ね、と同意を促され、つられて頷いた。志乃は一層笑顔を深めると、私の手を取る。繋ぐ手の感覚など勿論ない。…ない、筈なのにどうしてなのか、私がコントローラーを握る手は、燃えるように熱くなっている気がした、…そして震えていた。志乃は、相も変わらず笑っている。しかし画面の向こうで、志乃は泣いているのではないかと、感じた。確証はないけれど。


「…志乃、」
「ん、なぁに?」


これから何かが起きる。志乃も、私も、そんなことは分かっていた。

それでも、優しく君は微笑んでいたのだ。


「じゃあ、またね?」
「…うん、また。」


メイカ、とか細く名前を呼ばれた。握っていた私の手をするりと離した志乃は、その時初めてほんの少しだけ眉を顰めた。ああ、暫く彼女と会えなくなるんだ。この表情だけで、志乃のことを分かってしまう。きっと、私が志乃のことを直ぐに分かってしまうのと同じで、志乃も私のことを直ぐに分かってしまう。だからこそ、私がこれ以上の問いかけをしないことも、知っている。ぐ、と唇を噛み、野暮なことは言うまいとした。彼女が私に、私だけに与えた言葉を守る為にも。細めた瞳で、しっかりと彼女の姿を焼き付けて。


「志乃が私の一番の友達よ」
「ふふ、私もそうだよ、メイカ」


大好き。日頃から互いによく交わすその言葉。しかし今日の彼女の言葉は、何故だか痛く、私の胸に刺さっていた。



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