トーナメント三回戦、VS揺光“暁”。今回はパイに誘われ、一緒に観戦することにした。隣にはクーンもいる。丁度、女の子に囲まれてヘラヘラしていたクーンをパイが制裁したところだ。重い蹴りだった。


「憑神を使わない限り、ハセヲはこの戦いには勝てない」


ハセヲはきっと、使う。そうパイは言った。一般PCへ憑神を使うのは危険なこと。…それはハセヲも分かっている。分かってるけれど…分かった上で、使っているのだ、あの力を。…私はハセヲを信じてる。私はか細く呟く。祈るように手を合わせる私を見て、パイは緩く首を横に振ったのだった。
試合は、予想以上に互角の戦いをしていた。揺光相手にハセヲがよく健闘している。しかし、暁が覚醒を使ってから、状況は劇的に変化した。暁の一方的な攻撃をただ受けるだけのハセヲチーム。これではあっという間にハセヲのHPは削り切られてしまう。終わってしまう。

── その時だった。


「…来るわ」


パイの呟きより早く、私は手摺りから身を乗り出していた。ハセヲが何か呟いているのが聞こえる。

── 呼んでいる。


「だめっ、ハセヲ……!」


碑文使いでなければ、憑神を視認することは出来ないんじゃなかっただろうか?そんなことはどうでもいい。ただ、私の目にはこの前よりも明確に、ハセヲの後ろに“何か”…恐らく憑神がいるのが見て取れた。ボルドー戦の時は赤黒いモヤしか見えなかったというのに。その何かは大きな鎌を手に持ち、思い切り振り上げている。


「うわぁあああああああああああ!!!!」


その鎌は無情にも、振り下ろされた ── 。

ハセヲチームの勝利宣言後、揺光は立ち上がっていた。どうやら未帰還者にはならなかったようだ。本当に、良かった。手摺りを掴んだまま、崩れ落ちる身体。動悸。
使ってしまった。ハセヲはあの力を振り翳し、この先も立ちはだかるもの全てを薙ぎ払って進んでいくのだろうか。クーンは私に手を差し伸べ、パイは体を支えてくれた。彼らのその表情は、険しい。


「あいつは…勝てば何をしてもいいと思ってる…」


…クーンやパイの言うことは正しい。でも、ハセヲは目的の為なら手段を選ばない。他人の言う通りにしたくない。自分を否定されるのが何よりも嫌いだから。私が何故ハセヲの傍に居られるのかといえば、私はハセヲの全てを肯定し信じているからだ。そしてハセヲも私がそうあることを信じてくれている。だからこそハセヲは私の言うことをちゃんと聞き入れてくれる。その立ち位置を捨てるのが怖いから、私はハセヲが間違っていると思っても言い出すことができない。彼を否定できない。ハセヲは私達の目標を達成すべく、この絶対的な力を手に入れてくれた、だけどそれを私利私欲の為行使し続けるのが正しいことではないということくらい、…本当は彼を止めなければいけないということくらい、頭では分かっている。

── 身をもって教えてやる、憑神の本当の恐ろしさを。そう言ったクーンの目は見れなかった。

次の決勝戦の相手は、クーン達だ。



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