PKを見つけるのは容易かった。何故かといえば、PKがキル行為をする場所というのはエリア最深部 ── 獣神像のある場所であることが多いからだ。自分の経験上。勿論今回も例外はなかった。別段有用な情報も得られないだろうが。雑魚ばかりだったので難なく追い詰め、止めを刺そうとしたわけだ…しかし、そこで邪魔が入った。


「よう、また会ったな」
「…松」
「PKなんぞやめてもらおうか」


そんなにPKしてぇなら、俺と勝負だ。突然やってきたのは松、振り向けば銃剣を構えた彼の姿。その銃口は真っ直ぐに私を捕らえ、今にも引き金を引かんとしている。やはり、目を付けられていた。といってもどうせ、月の樹の七番隊隊長として現場を見に来たら鉢合わせた、だとか、そんな感じなんだろうけれど。最近、月の樹に見張られているのではないかと思うほどに良いタイミングで彼らに邪魔をされている。…気のせいだろうか。


「来るならもうちょっと早く来なきゃ駄目じゃない。コイツらがPK行為する前に」
「俺はお前がやってることも同じに見えんだよ。なぁ?」
「…PKの成り上がりのクセによく言うわよ」


松の乱入を受け、完全に萎えた私は床に転がしたPK達の止めは刺さず、武器をしまう。…これ以上やったとしても、コイツらが碌な情報を落とすとも思えないし、一刻も早くこの場を去りたい。松を一瞥し、かつりかつりと態とらしくヒールを鳴らしながらその場を後にした。

ハセヲはまだレイヴンから帰ってきてないだろうし、一度タウンに戻るかと考えていたところ、背後から私を追いかけてくるような足音。振り返らずとも分かる、…松だ。


「何でついてくるの?」
「え、お前ヒマそうだったから」
「…そういうことを聞いてるんじゃないよ」
「俺は、お前が気に入っちまったんだよ。忘れたのか?」


振り返り、彼を睨むと笑顔を返される。そういえば先日、初対面だったのにも関わらずそんなことを言われたような…一緒に冒険でも行こうぜ、と言われたが、私と冒険に行きたいなら最低100レベルにしてくれる?と返しておいた。松はしょげていた。まるで捨てられた子犬のような…何だか憎みきれない人だ。しかしハセヲの知らないところで月の樹とつるんでいただなんてバレたら…想像しただけで恐ろしい。ログアウト、今すぐこの場を離れなければ、そう決めてメニューを開くと今度は腕を掴まれる。


「じゃあ、せめてメンバーアドレス交換!」
「…何する気、転売目的?」
「んなわけあるか!!!」


こうして、何故か私にしつこく絡んでくる松とメンバーアドレスを交換したことで漸く解放される。その後、メールが続々届くようになったのだった…。

という話は置いておくとして。結局ハセヲからショートメールが届き、話したいことがある、というのですぐさまカナードの@homeへ向かった。松は置いてきた。


「ごめん、待った!?」
「いや、…何でそんな疲れてるんだよ」
「ちょっと変のに絡まれて…」


ハセヲがレイヴンでギルドマスター・八咫から聞いたことを、教えてもらった。
まず、三爪痕による一ヶ月前の事件の記録を見たこと。三人組のうち一人が三爪痕の攻撃 ── データドレインを受け、意識不明に。志乃の他にも、三爪痕の被害者がいたというのだ。その意識不明者を、“未帰還者”と呼ぶらしい。しかも、三爪痕はカオスゲートを使わず移動することができるという。まさに神出鬼没。これでは、移動ログを残さない奴を捉えるのはシステム管理者でも困難だ。そしてハセヲは、三爪痕の情報の対価として、AIDAの調査に協力することが決まった。


「ごめんね…ハセヲ、私何も出来ない」


改めて、レイヴンから仕入れる情報の、その精度の高さを実感した。そもそも、私のような一般PCが、彼らCC社の情報収集能力に勝るわけがない。…そして、憑神をもって三爪痕を倒すのも、ハセヲ。私が出来ることなんてもうない。三爪痕の情報がレイヴンから手に入るなら、私が情報収集、つまりPKKをする必要もなくなってしまうわけで…私は今、何の為に此処にいるのだろうかと、毎回考えがそこに辿り着いてしまうのだ。ハセヲは優しいから、私が隣にいてくれるだけでいいと言うけれど、何もしないで黙って見ているなんて、もどかしさでどうにかなってしまいそう。


「つらいかもしんねぇけど、俺はメイカが傍にいてくれなきゃ嫌だからな」
「ハセヲ…」
「…ダメなんだよ、志乃が救えたって、」


お前が一緒じゃなきゃ、意味がない。


「ありがと…ごめんね、いつも自分ばっかり」
「何言ってんだ。そんなこと考えてねぇで、メイカは笑ってろ」


私の頭を撫でてくれるハセヲが、あまりに頼もしすぎて。というか、年下の男の子に慰められる私のなんと情けないことか…。
ハセヲは、この後お世話になっている大火に呼び出されルミナ・クロスへ行くという。時間があれば折角だし一緒に行くかと問われ、確かに少し興味もあったので、ハセヲについていくことにした。


「オメェ…コイツのガールフレンドか?」
「うっせぇぞオッサン!!」
「メイカです。ハセヲがいつもお世話になってるそうで」
「ははぁ、成る程な。オメェがボウズの守りてぇ女ってか」
「余計なことほざいてんじゃねぇ!!!」


すっかり大火のペースに乗せられたハセヲは、私と目を合わせると、真っ赤になって視線を反らした(可愛い反応するなぁ…)。話の内容はよく分からなかったけれど、大火には私の話をしてくれていたみたいで、何だか嬉しかった。
大火に連れてこられたのは、アリーナの宮皇のみで構成されているというギルド“イコロ”の@home。そこに居たのは天狼、太白、そして揺光。みんなどこかで聞いたことがある名前、アリーナで活躍する有名プレイヤー達だった。


「コイツ、弱そうだよ?」


やってきた揺光に煽られ、ハセヲは叫んだ。エンデュランスを倒すのは俺だ!と。揺光も、エンデュランスを倒すのはアタシだ!と叫び返した。そのまま揺光はハセヲの胸倉を掴み、いとも簡単に捻りあげたのだ。自分より体格の小さな、しかも女の子に圧倒されるなんて…このままではハセヲのプライドが許さないだろう。

イコロの殺伐とした空気感を私達はひしひしと感じた。大火が何故此処に私達を連れてきたのかといえば、…恐らくハセヲの戦い方を見て、きっとハセヲのことを気に入ってしまったんだろう、彼に、イコロを立て直して欲しいと思っているんだろう。何となくそう悟り、大火をちらりと見やる。仮面の下、その表情はきっと…。



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