ハセヲはどうやら大火という熟練プレイヤーの助けを借りているらしい。どこかで名前を聞いたことがあるような、ないような…。彼はハセヲを弟子だと言っているとかで、彼の助言により、私の思っていた通りハセヲはジョブエクステンドイベントをさくっとこなしてきた。嬉しそうに大剣を振り回すハセヲを見て、私も嬉しくなる。


「うん、前のハセヲに一歩近づいたね。だいぶ見慣れてたから、なんだか物珍しいな」
「これで戦力も上昇したしな。負ける気がしねぇ」
「お、かっこいいぞっ!ハセヲ!」


茶化してそう言うと、ハセヲは照れていた。

そんなこんなで、無事アリーナランクを16まで上げることが出来たハセヲチームのトーナメント初戦が始まる。ルミナ・クロスのアリーナカウンターの前で、出場を控えているハセヲとアトリ、シラバスとガスパーが来るのを待っている私。今回、シラバスはこの戦いには参加しない。ボルドー達に散々な目に合わされ傷付いたガスパー、同じようにシラバスも傷付いている。奴らと戦うのが怖い、とシラバスは言っていた。彼らは私達に関わったからこそ、こんな殺伐とした世界に足を踏み込んでしまったんだと、思ってやまない。その責任を、ハセヲは果たしてくれる。私の想いと共に彼らと戦ってくれる。


「頑張ってね、二人が来たら、私も観客席に入るから」
「おう。…ちゃんと見とけよ。絶対に勝ってやる」
「ふふ、心配してないよ」


それじゃあ、また後で。そう声を掛け、二人を送り出す。程なくして、重い足取りでシラバスとガスパーがやってきた。ハセヲの勇士を見届ける為に。私は二人の背をぽんと叩くと、共に観客席へと向かった。元々私はアリーナバトルになんて全く興味がなくて、最近ハセヲが出るからと見始めただけで、何にも知識は無い。それでも今回は絶対に負けてはいけない試合だ。私達二人の傍に居てくれる、この優しい友達を守る為の戦いでもあるのだから。

トーナメント一回戦、VSボルドー“狙うは一つ”。ハセヲは使えるようになったばかりの大剣で相手を圧倒していた。しかしボルドーも、素早い刀剣捌きで応戦。…どちらかと言えば、ボルドーの方が優勢に見える。しかし、ハセヲがPKKとして恐れられてきた理由は対人戦闘技術の高さ、それは決してレベルに依存しているものじゃなかった。ハセヲはこんなとこで負けるような人じゃない。信じてるからね。…そう祈った、のだが。


「効かねぇなぁ〜?」


私の祈りは虚しく、後半にはボルドーの優勢は誰の目にも明らかだった。ボルドーの刀剣による鋭い攻撃で、弾き飛ばされたハセヲは崩れ落ちてしまったのだ。隣にいたアトリは既に戦闘不能、ここでハセヲまでが倒れてしまえばその瞬間、試合が終わってしまう。ハセヲ…!思わず彼の名を呼ぶ。シラバス、ガスパーも必死にハセヲの名を呼んでいた。


「…誰も…守れない」


その時だ。恐らく熱狂している観客には聞こえないであろうハセヲの声が、私の耳に届いたのは。思わず立ち上がり、手摺りを掴み食い入るように彼を見つめた。

── なにか、くる?


「…倒してやる…絶対!!絶対っ!!!」


── エンデュランスも、三爪痕も。

彼の異様な雰囲気に気付いたのは、私だけではなく、観客のざわめきは少しずつ消え、ハセヲに注目が集まっていた。


「来い………」


来い、とハセヲは繰り返し何かを呼んでいる。次の瞬間、鋭くオーヴァンと叫んだハセヲは、来い、から来た、に叫び声を変えた。


「来たぁぁああああああああああっ!!!!!!」


── それは、赤い、閃光。

彼が、ぼんやりと赤黒い何かに包まれているのが見える。見たことのない現象。あれは、…あれが、ハセヲの持つ特別な力…?彼を守るように漂うそれは、明らかにこの世界の理とは大きく反れたものだと感じた。空気が、震えている。


「やめるんだ!!!ハセヲっ!!!」


どうやら割合近い場所で観戦をしていたらしい、クーンの叫び声が聞こえた。クーンに見えているのなら、ハセヲが今この場で、力を覚醒させたのは間違いないのだろう。私達の目標であった、三爪痕に対抗する為の力、それを漸くハセヲは覚醒させることが出来たのだ。…しかし、ハセヲはその力を、今、私達の目の前で、ボルドー達に行使しようとしている。


「…えちまえ…!」


消えちまえ。私が聞き間違ってなかったら彼はそう言った。…それは、駄目だよ、ハセヲ。そんなものを使わなくたって、ハセヲは。しかし身体全体がガタガタと震えて、私は声を出せなかった。激しい動悸、乱れた呼吸で喉が鳴る。嗚呼、ハセヲがその手を振り下ろす、その瞬間。思わず私は耳を塞ぎ、目を瞑った。


「ダメ ────── !!!」


── 切り裂いたのは、アトリの叫び。

ハセヲが纏っていた赤い光は、ふわりと掻き消え霧散していった。残ったのは、笑顔のハセヲと倒れたボルドー一派だった。



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