「何だろう、意気込んだ途端に…」


いつも通りの情報収集で、BBSをこまめに見ることは最早癖になってきたのだけれど、うわさ板 ── よもやまBBSに三爪痕の情報の書き込みがあった。普段こんなにピンポイントの書き込みはすぐ出てこないのに。内容は、三爪痕をグリーマ・レーヴ大聖堂に呼び出すといったもの。所謂“釣り”であることも考えられる、が…一応確認に行こう、そう決めた。善は急げ。


「きゃっ!」
「わわわぁ!」


ログイン、カオスゲートから飛び出すと、誰かとぶつかって、相手のPCは反動で転んでしまった。ごめんなさい、と謝罪の言葉を告げ、次いで直ぐにゲートメニューを開く。エリアワードを入力…Δ隠されし禁断の…って、今ぶつかったPC何処かで見たことがあるような…。足元を振り返ると、そこにいたのは、私の友達。


「…ガスパー!?」
「メイカ…」


彼の存在に気付き、メニュー画面を閉じて転んだままのガスパーに手を差し伸べる。ごめんね、と謝ると、自分がぼーっとしていたのが悪いから、と言って弱々しく笑うガスパー。彼の愛らしいたれ耳が、いつもより下がっている気がする。


「ガスパー…?元気ないね?」
「そ、そんなことないぞぉ!」
「ふふ、嘘つかなくてもいいよ。何かあったのね。私で良ければ力になるよ?」


話してみて、言うと、ガスパーは途端に瞳を潤ませ、私に抱きついて大声で泣き始めてしまった。そんなに辛いことがあったなんて。カオスゲート前では人目に付きやすいので、取り敢えず港エリアに向かって、ガスパーの手を引いて歩き出した。三爪痕のことは、気になるけれど…私を慕ってくれる目の前の友達を放ってはおけない。ハセヲには一段落したら連絡してね、と簡単にショートメールをした。よくよく考えたら、私一人では三爪痕に対抗することは出来ないのだから、ハセヲと二人で行ったほうがいいかもしれない。ということで、そちらにはハセヲの時間のあるときに行くとして、今はこの可愛い友達の話を聞くことにする。ガスパーは優しい子だ。一緒に居たら誰もが分かる。だからきっと、周りの人に迷惑をかけたくないと思う筈。相談できなくてここまでなるくらいだから、きっと仲間…主にハセヲやハセヲやハセヲのことなんじゃないか、そう思っていた。そうしたらまさにハセヲのことだった。

カナードのギルドショップ“ショップ・どんぐり”で買い物をした客が次々にPKされ、今では客が寄りつかなくなっているという話。主犯はボルドーたちで、ショップに直接嫌がらせをしに来ることもあるらしい。ハセヲに手を貸すからだ。彼らはそう言っていたという。…もう、心当たりがありすぎて頭が痛くなってきた。どうせ、この前のエリアで榊達が乱入してきた時に、私達が月の樹と関わりがあると思ったから…直接私達へコンタクトせずに、周りから落としていったというわけだ。…榊達が余計なことをしなければ、こんなことにはならなかったんじゃないか。


「客を守るって言っても限度があるし…そもそも根本的な解決にはならないよね」
「だめなんだぁ…何度言ってもやめてくれない…」
「うん、やめないだろうね。アイツら、そういうのを楽しむ連中だから」


取り敢えず、時間があるときはガスパーの傍にいるようにするよ。そう言って、彼の頭を撫でた。ガスパーは、やっぱりメイカはオイラの正義の味方だと、微笑んだ。楽しい筈のこの世界を楽しめない。彼には辛いことだろう。私にはない、その純粋な気持ちを守ってあげたかった。…なんてね。兎に角、彼の、カナードの力になることを約束した。
本当はハセヲに話したい。でもハセヲは今忙しいから、迷惑かけたくない。そう思うのはすごく分かるけれど、いつか彼に話さなければいけないことだろうし、黙っている期間が長いほどに彼は怒るだろう…。時期を見計らって声をかけなきゃな。そう思っていたら、丁度ハセヲから区切りがついたとショートメールが送られてきた。ガスパーに、この後ショップを開くのは控えるように言って、私はグリーマ・レーヴ大聖堂へと向かった。

美しい教会の中で、三爪痕の爪痕だけが鈍く光っていた ── と言いたいところだったが…先に来ていたハセヲと、なんか金ピカ鎧の方がいらっしゃる。


「お主も良き目をしている〜〜!!」
「えっと?…ありがと?」
「ではまた会おうではないか!ぬわっはっは!」


金ピカ鎧のぴろし3は、メンバーアドレスを私に送って帰っていってしまった。ハセヲ、と呼びかけると、彼はハズレだな、と呟いた。どうやら彼も、三爪痕の行方を追っている一人らしい。私の見かけた書き込みは、彼によるものだった。あまりの存在感と勢いに驚きを隠せなかった…。ハセヲに無駄な時間を取らせてごめんねと謝罪。


「ハセヲは、ルミナ・クロスに戻る?」
「ああ、そのつもり。…寂しくて泣いてないか?w」
「…そっちこそ。」


こうして悪態をつきながら、離れている間も彼の連絡は非常にマメだった。

ハセヲと別れ、マク・アヌに戻ると、広場にはガスパーとシラバスの姿があった。シラバスはこの事情を知っているようだった。私に気付き手を振るシラバスに手を振り返し、ハセヲがルミナ・クロスに戻ったことを彼に伝える。ガスパーのことなら、私に任せておいて。そう耳打ちするのも忘れずに。予見通りハセヲから呼び出しのかかったらしいシラバスは、申し訳なさそうにルミナ・クロスへ向かった。ガスパーは、やはりショップを開きたいと、…それをシラバスに止められていたらしい。


「ね、私がいるから、ショップやってみようか?」
「…メイカ、ありがとうなんだぞぉ!」


── そして、ショップを開くも、ガスパーの話通り客は全く来ず、彼はしょんぼりと耳を下げるばかりだった。幾ら時間が経とうと、この状況は一向に変わらない。それでも、ガスパーがやめると言うまでは私も隣に居ようと決め、店番を続けていた。そうして何時間経過したのかもわからないが、そこへ、またも現れたのは…言わずもがな、ボルドー一派。


「おやおやぁ、今日はメイカちゃんも一緒なのかい。怖気づいて逃げ出したかと思ったケド…まだやるとはねぇw」
「どうも。本当によく会うわね。何の用かしら」
「今更何したって遅ぇんだよ、バーカ!!」


大声で怒鳴るものだから、隣に座るガスパーは完全に身を縮こませ震えている。彼の様子を見てけらけらと笑うボルドー達を睨み、座っていた私は彼女の目の前まで歩いていって、その耳元に唇を寄せ、囁いた。


「アンタ達のこと、嫌いじゃ無かったよ。ちゃんとエリアでケンカ売ってくれるから」


弱い奴は安全なタウンでしか吠えられない。その点彼女達はエリアでもケンカを売ってきた。エリアではプレイヤーのキル行為が出来る。このレベル差では十中八九自分達が殺されるとしても、気に入らない奴は気に入らないと敵意を剥き出しにしてくる。その点では、彼女達は度胸があるなと思っていたわけだ。…でも、


「やり方が特に狡猾。」
「それは褒め言葉だねぇ…」
「こんなくだらないことをしている暇があるなら、レベル上げでもしたら?雑魚も多少はマシになるんじゃないの」
「何で指図されなきゃなんねぇんだよw」


私から距離をとるボルドー。今日のところは私に免じて勘弁してやる、そう言って彼女達は去っていった。私の話など聞く耳を持たない…駄目だ、あれでは。振り返れば、ガスパーはしくしくと泣いていた。彼の隣へ戻り、背を撫でる。


「もうだめだぁ…だめなんだぁ…」
「ガスパー、元気出して。ガスパーが泣いていると、私も悲しいよ」
「メイカ、オイラ…オイラどうすれば…」
「…ガスパーと、メイカじゃないか?」


ふと、名前を呼ばれ声の方へ顔を向ければ、クーンとハセヲ、シラバスがいた。ガスパーはクーンの姿を見るなり、彼に抱きつくと大声で泣き始めてしまった。怪訝そうな表情を私に向けるハセヲ。…これではもう黙ってはおけないと、理由をハセヲに話すことにしたのだった。

一部始終を説明し終えると、ハセヲは激昂した。どうしてやり返さない、やり返さないから付け上がるんだ、と。私はハセヲを宥め、誰もがみんなハセヲのように強い心を持っているわけじゃないよと、言った。私の言葉に、ハセヲも押し黙る。手足が馬鹿なら、頭も苦労すると相場は決まっている。手足に話が出来ないのなら、


「ケストレルへ行って、がびと話をしてくる」


それが、クーンとハセヲの出した結論。私もそれについていくことにした。



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