闘技場で宮皇とタイトルマッチを果たすためには、まず自分のチームランクを最終トーナメントへの出場権利を得るベスト16までに食い込ませる必要がある。そこで勝ち抜き優勝することで初めて宮皇に挑むことが出来るのだ。紆余曲折あったが、漸くメンバーが出揃ったハセヲチームの挑戦が始まる。アリーナカウンター前、紅魔宮へのチーム登録を済ませたハセヲ達。紅魔宮は参加プレイヤーの制限レベルが、他のトーナメントに比べて一番低い。故に難易度が低く、参加者も一番多いというわけだ。


「これだけたくさんのチームがいるとなると…とにかく数を戦って、ポイントを稼ぐしかないね。とりあえず、今のレベルで勝てそうなチームと戦ってきてみたら?」
「そうするしかないか。…じゃあ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい。」


控え室に案内されるハセヲとシラバスとアトリ。それを恨めしげに見る私、…ああ、駄目だ。嫉妬してしまう。ずっと一緒に目的に向かって二人で走ってきたのに、此処に来て私だけ足踏み……、最近一緒に居られないからって、妬かない、妬かない。そう言い聞かせて、観客席へと向かう。ハセヲは、レベルが低くても、ハンデはそれだけだ。プレイヤー自体は古参だし、PKKとして活動していただけあって対人戦闘経験は人並みよりもずば抜けて高い。アリーナにはアリーナの戦い方というものがあるのだろうけれど…それだって凌駕してしまうほどのプレイを見せてくれる筈だ。


「…って、ちょっと贔屓目すぎかな」


初戦、何事も無かったかのように相手を下したハセヲチーム。ハセヲのワンマンプレーにも見えなくは無いが、あのレベルの相手では到底彼の敵にはなりえないだろう。この調子なら何の問題もなさそうだ、と判断した。勝利後、アトリがハセヲに抱きついていたのが見えた。……ひとり溜息、会場を後にする。

会場入口の前でハセヲが戻るのを待っていると、またしつこいのに出くわした。ボルドーだ。こんな所でまで顔を合わせるなんて。ほぼ同じタイミングでお互いに気付き、彼女の方から声を掛けてきた。


「あぁ〜ら、メイカちゃんじゃないのぉ」
「どうも、最近よく会うね。ストーカー?」
「馬鹿じゃねーの?wアタシらもトーナメントに出てんだよ」
「へぇ。アンタらみたいな雑魚に当たればハセヲも苦労しないんだけどね…」
「テメェ…調子乗ってんじゃねーぞ」


少し煽り文句を吐けばあっという間に激高して騒ぎ出す。本当に煽り耐性が無い。なんて、くすくす笑いながら彼らの反応を楽しんでいたら、丁度ハセヲ達が会場から出てきた。彼女達はハセヲの顔を見れば悪態をつきながら、その場を去っていった。
このトーナメントで、ハセヲとボルドーは戦うことになるかもしれない。私は煽る上で雑魚と言ったが…このレベル差では、ハセヲはボルドーには勝てないだろう。少しばかり努力しなければならないかもしれない。…これは大変だ。と思っただけで言わなかったけれども。ハセヲが怒るから。


「俺は暫くレベルとランク上げ。メイカは…」
「適当に情報掴みながらやっとく。ハセヲはアリーナに集中してね」
「…悪い、な」
「いいのよ。ハセヲはエンデュランスが、気になるでしょう?ハセヲの力…使えるようになるためには、きっとこれは必要なことだから」
「、…そうじゃなくて」


ハセヲは何故か言い淀む。そうじゃないと言われても、三爪痕や志乃のことを私に任せ切りにするのが悪い、という意味ではないのだろうか。そういうことなら、三爪痕はハセヲの力を使えるようになることが一番の近道になるのだし…そう思っていたら、不意にハセヲに手を取られ、そのまま引かれた。…顔が近付く。 


「…一人にして悪い、って意味だ」
「…ハセヲってば、」
「お前寂しがり屋だから、離れるの心配。」


私の瞳を覗き込み、にやりと笑ったハセヲに、思わず頬が熱くなる。先程まで嫉妬に塗れていた私が、こんなことで機嫌を取り戻すのだから単純だ。ハセヲが私のことを気にかけてくれているなら、私は一人でも頑張れると思ってしまった。…調子が良すぎるだろうか。緩む表情は隠すことが出来ない。


「ありがと。大丈夫。…嬉しいから、頑張れるよ。ハセヲも頑張ってね」
「おう。…メール、する」
「うん、私も。」
「……電話、もしていいか?」
「ふふ、寂しがり屋はどっちかな」 


最近は特に、不測の事態に備えハセヲには定期的に連絡をするようにと心がけている。こんなことを言わなくてもいいのに、態々口に出してくるハセヲ。突然甘えてくる彼にすっかり余裕を取り戻した私は、空いた手でハセヲの頭を撫でた。こつり、額同士を合わせ、またね、と挨拶を交わしてから少し離れ、手を振った。勿論、アトリとシラバスにも。さぁ、暫く別行動だけど、一人で頑張らなくちゃ。私はその場を後にした。

実は一人で行動することは、今まであまりなかった。ゲームを始めてから志乃と一緒だったし、その後もハセヲとずっと一緒だったから…でも、今私に出来ることをやろう。ハセヲのために何か出来るならば。オーヴァンに言われた通りに、このまま絶望しているだけの私じゃないんだ。そうして上機嫌で、ログアウトした。

残されたハセヲが、シラバスとアトリから、私との関係を問い正されていることなど知りもせずに。



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