好きになったと自覚した瞬間に、顔が見れなくなった。


「ちょっと、ねえ、なに顔反らしてんの」
「…違う」
「なにが?こっち向いてよ」


ぐいぐいとひっぱられて思わずもっと顔を反らした。此処は図書室なので、あまり騒ぐと他の奴らに迷惑になる。分かっているのにどうしようもなくて、兎に角静かにしようと俺の顔を見ようとしてくる頭一つぶんくらい小さな彼女を抱き締めた。彼女は唸りながら俺に抱きついてきた。…ここまできてから、この後どうしようかと考える。

彼女は、俺の傍にずっといた。今までずっと。何があってもついてくる。ついてくるなと何度言っても聞きやしない。彼女は俺が必要だと言っていた。俺が好きだと言っていた。だから、これからの事は気にしていなかった。彼女が俺から離れていくことになって、初めて、気付いた。バイバイ、と言われて初めて気付いた。俺の方が彼女を必要としていた。俺の方が彼女を好きだった。誰にも、渡したくなかった。


「私、ついにSeeDになったんですけど?おめでとうとか言えないのかな」


腕の中で彼女がぽつりと呟いた。正直顔を見られないし、見られたくないので、抱き締めたままで動けない。あろうことか、視界が歪んでいる。情けないと思う。それよりも自分がこんなに一人の人間に執着するとは思わなかったという驚きの方が強い。


「めでたくない」
「何それー、ひどいよ」
「お前は、」


嬉しいのかと言い掛けて、口を閉じた。止まらなくなりそうだ。彼女は「嬉しいに決まってるじゃない、努力したんだから」と言った。しかしそれでは彼女は自分から離れていくことになる。


取られる。


漠然とそう思った。俺の傍にいる彼女はいなくなる。そうしたら彼女はどうなる。誰のものになるんだ。俺のものではなくなるのか。ああ、そもそも俺のものではない、のか。


「……お前は、誰のものだ?」


不意に飛び出した言葉に動揺しつつ、後には引けずに問いかけてみた。彼女は訳がわからないと言いたげな顔をしているんだろうが、抱き締めたままで顔は見えない。やがて彼女がぽつりと言った。「スコールのものでしょ」と。それならば、後は俺が彼女に追い付けばいいのだ。だから二度と別れの挨拶なんてさせない。言わせるかと、多少無理矢理彼女の口を塞ぐことにした。好きで好きで、甘くて苦しくて死んでしまいたくなる。こんな感覚を抱かせる、ナマエという女は本当に恐ろしい。


「敵に回したくないな、お前だけは」
「私もそう思ってた!」




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